2024年5月29日(水)

勝負の分かれ目

2021年12月7日

 思えば、高津監督は2017年に二軍監督を務めた経験を踏まえ、自著『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~ 』(光文社新書)のタイトルにもあるように、プロ監督の持論として「育てるためなら負けてもいい」という考えを持っている。データばかりに傾倒し結果重視に走り過ぎてしまうことは極力避け、育成にも重きを置きながら長いスパンで強いチームを作り上げていく――。これは口で言うのは簡単だが、非常に勇気の必要な方針だ。

 配下の選手たちを単にデータでコマのように扱うだけではなく当人たちの立場を慮りつつ心もつかみ取っていなければ、チームはまとまらない上に成熟していくこともない。だからこそ就任1年目でリーグ最下位に沈んだ昨季も高津監督は「慌てず騒がず」の姿勢を貫き、今季こそが勝負の時と踏んでいたのだ。

4カ国でのプレー経験がなし得た監督としての視点

 個人的に高津監督の原点は現役時代に日本のNPB(日本プロ野球)、米国のMLB(メジャーリーグベースボール)、韓国プロ野球「KBO」、台湾プロ野球「CBPL」と4カ国でプロ野球リーグを経験した初の日本人選手となったことにあると思っている。現役晩年は日本の独立リーグ・新潟アルビレックスBCで選手兼任監督としてプレーしたこともあった。さまざまな国や地域で世界中の野球文化を体感し、NPB歴代2位の通算286セーブ、史上2人目となるNPB・MLB通算300セーブという偉大な結果とともに名球会入りも果たした。

 こうした経験こそが指揮官となった今、あらゆるタイプの選手たちを〝知る〟上で大きく役立っているのは明らかだ。MLBのシカゴ・ホワイトソックスでクローザーを務め〝ミスターゼロ〟のニックネームも付けられていた現役時の高津監督について当時、現場で取材していた筆者にオジー・ギーエン監督が「シンゴはナイスガイ。誰とでもいいコミュニケーションが取れる。彼はブルペンのリーダーだ」と太鼓判を押していたことを思い出す。

 そして今年。日本シリーズの初戦が始まる前、高津監督が選手たちにこう呼びかけたことがあった。「このチームの特長はつながり。全員がひとつの輪になって、全力で4つ勝てるように努力していこう。みんなで肩を組もう」。 

 柔軟な選手目線の采配と起用法によってチームの結束を生み出し、高津監督は日本シリーズでも宙を待った。師匠・野村克也氏のスタイルを引き継ぎ、現代の観点から高津流〝ネオID野球〟へと昇華させた手腕は来季もますます冴え渡りそうだ。

 日本プロ野球界の頂点に立った53歳指揮官の斬新な姿勢と考え方は世のビジネスパーソンにとっても大いに参考となるところが多々あるのではないだろうか。

   
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