WEDGE REPORT

2013年1月21日

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勝股秀通 (かつまた・ひでみち)

日本大学総合科学研究所教授

1983年に読売新聞社入社。93年から防衛省・自衛隊を取材。民間人で初めて防衛大学校総合安全保障研究科(修士課程)を修了。解説部長兼編集委員等を経て現職。著書は『自衛隊、動く』(ウェッジ)等。

 まず、離島などの領土を守る態勢は、普段からの警備活動が重要であり、警察権など国内法の執行機関である海上保安庁と警察が担う役割だ。そして、彼らの能力を超える事態になれば自衛隊が間髪入れずに支える態勢、いわゆる「シームレス(継ぎ目のない)」な警備態勢でなければならない。しかしその実態は、かなりお寒い状況と言っていい。

 中国は12年9月以降、日本が魚釣島など尖閣諸島を国有化したことを口実に、国家海洋局所属の「海監」と漁業局の「漁政」などの政府公船を出動させ、領海侵犯を繰り返している。これに対し、海保は各地の海上保安本部から外洋活動に適した比較的大型の巡視船を動員して攻防に必死だが、その活動に限界があることはあまり知られていない。

 海保の任務は、海上保安庁法2条で「海上の安全及び治安の確保を図ること」と定められているが、その権限が及ぶ範囲は、同法20条で「軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶(政府公船)であって非商業的目的のみに使用されるものを除く」と規定されている。つまり、12年8月に魚釣島に上陸した香港の活動家を逮捕し、上陸を試みる漁船を排除したように相手が民間でなければ実力行使できないのだ。

 したがって現行法上、海監などの政府公船に対し海保にできることは、「警告と退去要求」だけ。言い換えれば、領海に入らないように呼びかけ、立ち去るようにお願いすることしかできない。それでも現状のように、日本の領海や接続水域内で日中双方がにらみ合っているうちはまだしも、仮に、海監が海保の警告を無視して、領海内で海洋調査を実施したり、情報収集を始めたりするなど、国際法に定められた無害通航に違反する行為を強行しても、海保には実力でそれを排除する法的な裏付けはなく、極端な言い方をすれば、眺めていることしかできない。

 ではその場合、海上自衛隊は何かできるのか、と言えば、自衛隊法に基づき「海上警備行動」が発令される公算が大きいが、その活動は「警察官職務執行法」の範囲内であり、警察権が外国公船に及ばないのは海保と同じで、ほとんど何もできない。04年に中国海軍の漢級原子力潜水艦が沖縄・南西諸島の領海内を潜没したまま通過する国際法違反事件があったが、海上警備行動を命じられた海自にできたのは、潜水艦を追跡し、浮上を呼びかけるだけだった。

 その理由は、この国には武力攻撃など急迫不正な侵害を受け、政府が戦争(有事)であると判断しなければ、独立国が主権を守るための根源である「自衛権」が発動できないという、国際常識とかけ離れた極めて抑制的な政府解釈があるからだ。

 1980年代、スウェーデンは領海内を潜航する国籍不明の潜水艦に対して、自衛権を発動して爆雷攻撃したように、政府は自衛権発動の解釈を見直し、有事と平時を問わず、自衛権に基づいて領土や領海を守ることのできる法整備が急務だ。もちろん、軍艦や政府公船を相手とする以上、判断を誤れば武力衝突に直結する。慎重な対応が必要で、立法化と同時に、相手の敵対行為や侵害の程度に応じて、段階的に対応する行動基準を策定する必要がある。

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