経済の常識 VS 政策の非常識

2022年1月11日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 デジタルについては、政府は効果のないデジタル戦略を繰り返してきただけだ(日経コンピュータ『なぜデジタル政府は失敗し続けるのか 消えた年金からコロナ対策まで』日経BP、21年)。なぜ政府が、民間に対して有効な方向性を示すことができると考えることができるのか私には分からない。

 念のために述べておくが、私は気候変動対策に反対している訳ではない。1970年代の公害対策で、コストをかけてきれいな大気や水を取り戻したことは素晴らしいことだったと思っている。政府は、コストをかけても気候変動対策や経済安全保障対策をしなくてはならないと国民を説得するべきで、これらの対策で成長できるというのは間違いである。

介護職員の低い給与は資本主義のせいではない

 人への分配はコストではなく、未来への投資だというのは、心地よく聞こえるが、それが投資であるかどうかは、企業と個人が決めるべきことだ。企業は、必要があれば高い賃金を払うだろうし、必要がなければ払わない。人は、それが将来の所得を上げるものと認識できれば技能を身に着けようと努力するが、無駄な努力はしない。

 国が決めることのできる保育士や介護職員の給与を引き上げることは望ましいと私は考えるが、その給与が低いのは資本主義のせいではない。図で、介護、保育(社会福祉の専門的職業)、看護の有効求人倍率を見ると、17~19年の職業計の平均が1.5倍前後の時、介護、保育、看護がそれぞれ2倍、3倍、4倍となっていた。

 職業計が1.1倍に低下した現在でも、それぞれ2倍、3倍、4倍弱である。資本主義であれば、求人倍率の高い仕事の給与は上がり、低い仕事は下がるものだが、そうなってはいない。

 なぜ介護などの給与が上がらないかと言えば、介護は介護保険で運営されているからだ。介護職員の給与が上がれば保険料を上げなければならず、それができないから給与を安くしておくしかない。安い給与では人が集まらないから必死に求人し、求人倍率が高くなる訳である。

予算から新しい取り組みが見えない

 22年度予算から、新しい資本主義関連の予算を「令和4年度予算のポイント」で見ると、「科学技術立国」「デジタル田園都市国家構想」「経済安全保障」という言葉が並ぶが、「科学技術立国」はこれまでもあったものだ。

 「デジタル田園都市国家構想」「経済安全保障」は新しいが、「田園都市」はデジタル予算を地方に配るもの。これまでのデジタル予算の二の舞にならないか心配だ。「経済安全保障」は重要技術の管理体制や量子暗号通信の研究などと書いてあるが、予算金額は書いていない。

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