そのような会社のあり方が崩れたことで、日本人が心の基盤に置いてきた共同体感情が崩れてしまった。つまり会社という機能集団が共同体化していたことが、日本人の共同体感情だったわけです。それが日本人としての共同体感情の基盤であり、宗教心のない日本人の心の拠りどころだったのです。日本の共同体化された機能集団は、経済的なものだけでなく精神的に大きなものをもっていた。それが無くなったのだから、何か心の拠りどころを見つけ出さないといけない。
経済成長優先できた日本は、うつ病を蔓延させました。経済成長を続けることは正しい考え方です。また心の健康を優先することも正しい考え方です。正しいことと正しいことの矛盾は歴史の現実です。その中で方向性を見出していくことが必要です。日本社会は矛盾に対する許容力がありません。
うつ病は複雑な要因があり対処法は、もつれた糸をほぐすようなものです。うつ病の本質を知り理解すること、心の拠りどころを持つこと、矛盾を許容することなどが必要です。
不況時にむしろ自殺は減る
―― 先生は心理学者として、心の問題などを研究されていますが、うつ病が蔓延している現代社会をどのように見ておられますか。そこにどのような社会的背景があると思われますか。
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加藤氏:うつ病の増加は、日本の高度経済成長の代償といえるでしょう。日本は経済成長の対価をうつ病で支払っていることになりますが、その実感を誰も抱いていない。うつ病の問題について労働組合、大企業の新人研修、中小企業団体などから依頼を受け、数年にわたり講演をしてきました。1980年代の時です。その当時、すでに現場ではうつ病が深刻な問題となっていたわけです。しかし、社会も経営トップたちも関心は示してこなかった。90年代に入ってようやく社会的な問題となり新聞、テレビにも取り上げられるようになりましたが、間違った認識しか伝わっていません。関心はあるが、理解していない。むしろ間違っている。
―― 認識ということでは「うつ病は心の風邪であり誰でもかかるものです」などと聞かされてきました。一般的な感覚で聞けば、その通りだと思えたのですが、先生の見解をお聞かせください。