2024年11月24日(日)

ベテラン経済記者の眼

2013年1月30日

 情報収集が遅れたのは、取材記者のアルジェリアの入国が制限され、現地に近づけないという事情も大きく影響しているのだろう。北アフリカには国の情報省の許可が下りないと取材活動ができない国が多く、アルジェリアも当初はそうした状況だったようだ。事件後はビザを出し、報道関係者もアルジェリア入りを果たして取材した情報がだんだん新聞やテレビのニュースになり、詳しい状況が見え始めている。

 日本では横浜市にある日揮の本社に社会部や経済部、横浜支局などの記者が集まって取材した。関係者から現場の様子を聞くと、日揮自体も情報がなかなかつかめず苦労していたようだ。日揮は一般のメディアが日常的に取材する企業ではないため、取材する側は会社のことをほとんど一から勉強することになった。日揮側の記者会見は時には1時間近くにも及んだ。限られた情報の中、記者の質問に真摯に応える日揮の広報・IR部長の対応は評価が高く、他の企業の広報担当から「危機管理の手本にしたい」との声があがっているほどだ。

投げかけられた課題

 今回、一つ大きな課題になったと思うのは被害者の名前の公表だ。当初、被害に遭われた方々の名前がわからず、各メディアは取材に非常に苦労した。日揮や政府側は不明になった方々の名前を早い段階から把握していたとみられるが、なかなか明らかにしなかった。このため各メディアは独自取材で犠牲になったと思われる方々を割り出して関係者に取材し、少しずつ情報を積み上げて特定していった。

 これまでなら、亡くなった方や不明の方々ということで名前が早期段階から公表されることが多かったが、プライバシー保護など様々な理由で抑制的になったのだろうか。もちろん政府や会社が最終的に確認してから、ということも理由だったのだろうが、「事件に巻き込まれた可能性のある方々」ということで公表してもよかったのではないか。最終的に亡くなった方の名前は政府が公表したが、事件の事実関係の早期の究明や検証、国民への説明責任という意味からは、もう少し早い段階から公表が必要だったのではないかと筆者は思う。

 もちろん関係者の心情を酌んだ節度や配慮ある取材が必要であることはいうまでもない。とはいえ、名前が公表されることで新たな情報が内外から寄せられる可能性も大きい。政府の邦人保護対策や企業の危機管理のみならず、こうした面でも今回の事件は課題を投げかけたのではないかと思う。

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