2024年11月24日(日)

ベテラン経済記者の眼

2013年1月30日

 日本人10人が命を落とす悲劇となったアルジェリアの人質事件は、昨年末に発足した安倍政権が就任1か月を目前に直面した最初の大きな試練だった。日本から遠い北アフリカの地で起きたテロ事件に、政府の危機管理や情報収集の底力が問われるケース。資源開発の最前線で活躍されていて今回犠牲になった日揮の関係者の方々には心よりお悔やみ申し上げたい。多くの邦人が犠牲になった事件そのものの重大性に加えて、報道の視点から今回の事件には注目すべき点や課題も多かった。

記者が商社やエネルギー企業に
手当たり次第に電話

 事件の最初の一報は海外の通信社からもたらされた。そこから日本の通信社が「アルジェリアで日本人が5人拘束されている」というわずか数行のフラッシュ(速報)を流した。企業人である可能性が大きかったが、この5人がどこの企業に所属する人なのか会社名などは当初、皆目わからず、メディア各社は社会部や経済部などの記者が商社やエネルギー企業に手当たり次第に電話をかけるなどして、最終的に日揮にたどりついた。

 筆者はこのニュースを聞いた瞬間、日本のどこかのプラント会社、特に日揮のような会社の関係者ではないかと直感的に固有名詞が浮かんだ。資源開発で各地に進出している日本企業は多いが、特にエンジニアリング企業はその技術力が世界的に高く評価されており、日揮はその一つとして中東やアフリカなどで外国企業との合弁などで活躍していたからだ。図らずも筆者の予想が的中した形になったが、詳しい情報の確認という点では難航を極めた。

 様々な情報が錯綜し、最初の段階での頼みはロイターなどの国際的な通信社や隣国のメディア、中東の衛星テレビなどの情報だった。これらはいわゆる「転電」という形でニュースにはなるものの、あくまで二次情報であり、確たる報道にはならない。そうすると確認先として日本政府の情報に頼ることになるが、政府自身もなかなか確認がとれない。これまで海外で日本人が巻き込まれた事件などの場合、情報の確認に手間取ることが多かったが、今回もまさに同様の展開となった。

 折しも安倍首相は東南アジアを歴訪中で官邸におらず、政府としても厳しい状況での危機対応だった。記者会見する官房長官の姿が何度もテレビで映し出されていたが、発生当初の段階では、情報不足のためか苦しそうな表情が見て取れた。

日揮の記者会見
「危機管理の手本にしたい」

 各国の関係者が同時に巻き込まれた国際的なテロ事件だったのも今回の特徴だ。時事通信は27日、「今回のアルジェリア人質事件では、外国人33人の死亡が確認された。このうち日本人が10人と最多。日本国外のテロ事件でこれほど日本人に犠牲が集中したのは異例だ」と報じたが、各国政府による安否確認作業の結果、日本人以外ではフィリピン人や英国人、ノルウェー人、米国人などの死亡が判明したという。日本政府にはアルジェリアの英国大使館筋から最初の襲撃情報がもたらされたようだが、各国政府と協力して情報収集にあたった面も大きかったのだろうと想像する。


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