米国とイランは2026年6月15日、戦闘終結に向けた覚書に合意したと発表した。スイスで6月19日に署名式を行い、通常の自由通航が困難になっていたホルムズ海峡を開放する。米軍はイランの港湾に対する海上封鎖を解除し、船舶の通航を再開させる。
原油価格は一時6%超下落し、日経平均も大幅に上昇した。市場は安堵感に包まれている。しかし、海運業界の見方は大きく異なる。
船社や船主が見ているのは、政治的な合意文書だけではない。実際に安全に航行できるのか。保険は引き受けられるのか。船員を確保できるのか。万が一の事態が起きた時、そのリスクを誰が負えるのか。
今回の合意は間違いなく前進だ。だが、それは危機の終わりを意味しない。
「海峡の再開」と「海運の正常化」は別物
今回の覚書では、ホルムズ海峡の即時開放と米軍による海上封鎖の解除が盛り込まれた。通航再開に向けた外交的枠組みとしては明確な前進である。
しかし、海事の実務は政治の時間軸とは異なる。国際海事機関(IMO)の情報では、危機発生時にホルムズ海峡の通過を希望していた船舶は800〜1000隻規模にのぼった。湾内全体ではさらに多くの船舶が影響を受けており、国際海運会議所(ICS)によれば、合意発表後も約500隻が海峡通過を待機している。
ICSのトーマス・カザコス事務局長は6月15日の声明で、今回の合意は「2万人の海員にとって安堵だ」と歓迎しつつ、「彼らの安全な退避には時間を要する」と述べた。IMO事務局長アルセニオ・ドミンゲス氏も合意を歓迎する一方、安全な通航確保のためのメカニズム整備を優先課題に挙げている。
湾内に滞留する船舶と船員の安全な退避、機雷リスクの確認・除去と航路安全の確認、戦争リスク保険の再査定、船社の配船復帰判断――。これらには一定の時間がかかる。
合意署名は物流再開の出発点に過ぎず、そのまま正常化を意味しない。

