2026年6月19日(金)

エネルギー依存国家・日本

2026年6月19日

 世界情勢が大きく揺らぐ中、エネルギーにおいて「選択と集中」の考え方は危険である。歴史に学び、あらゆる資源の選択肢を持つ「日本らしい」エネルギー戦略の策定が必要だ。「Wedge」2026年7月号に掲載されている「エネルギー依存国家・日本 持たざる「弱み」を「力」に変えよ」の記事の内容を一部、限定公開いたします。

 筆者は、資源エネルギー庁石油天然ガス課長としてイランとの石油利権交渉を担当し、2001年にアザデガン油田の優先交渉権を獲得した。イラン人は日本をこよなく愛し、数字にも法律にも強くタフな交渉者。全ての階層で頭脳明晰であった。

日本は、歴史の教訓や地政学を踏まえ、このエネルギー危機を乗り越えなければいけない(NEW SAETIEW/GETTYIMAGES)

 イランは単なる中東の一国家ではない。4000年を超える文明の歴史を持ち、1979年のイスラム革命、80年〜88年の死者100万人を超えるイラン・イラク戦争、長年の経済制裁を経験したが、どれもイランを屈服させることはできなかった。「短期で終わる」という米国トランプ政権の見通しは、イランの国民性と歴史を根本的に誤読している。

 今回、米国の攻撃で最高指導者ハメネイ師が殺害されたことは、単なる政治指導者の死ではない。シーア派において最高指導者は宗教的・政治的権威を体現する「神の代理」であり、後継は世襲だ。新指導者にモジタバ・ハメネイ師が選出されたが、体調や革命防衛隊との力関係は微妙である。殺害されたホメイニ師は、かつて「毒の盃を飲むようだ」と語りながらもイラン・イラク戦争の終戦を決定した。そのような存在が今回はいないためにイランは屈服しない上、核根絶にこだわるイスラエルも簡単には米国を終戦させない。

 73年、アラブ諸国が石油禁輸を実施した第一次石油危機では世界供給の約7%が止まり、世界経済は深刻なリセッション(景気後退)に陥った。今回のホルムズ封鎖は世界の20%超とその3倍以上の規模だ。

 さらに過去の危機には「安全弁」があった。サウジアラビアが余剰の生産能力を使って増産し、価格を安定させる役割を果たしていた。しかし、今回は完全には機能しない。サウジアラビアはホルムズ海峡を経由しない紅海ルートが使えるが量的に十分とはいえない。同じくホルムズ海峡を通過しないフジャイラルートを持つアラブ首長国連邦(UAE)が生産余力を増して石油輸出国機構(OPEC)を離脱したが、どのような影響が出るか未知数だ。

 エネルギー安全保障は民間企業任せにせず、政府が一定の主導的責任を持つべきだ。日本のエネルギー安全保障は輸送面でホルムズ海峡だけでなく、マラッカ・ロンボク海峡や南シナ海の封鎖への備えが必要である。この3つの要衝が同時に封鎖された場合を想定した設計でなければならない。

 また、今回の危機で日本は多くの学びを得た。地球温暖化政策として理解されがちな電気自動車(EV)・再生可能エネルギー・蓄電池戦略が、実はエネルギー輸入を減少させ、地政学的に貢献するエネルギー安全保障戦略に貢献するものであったことが証明された。再エネは国防に直結する。大いに進める必要がある。

 しかし、ウクライナ侵攻の際のエネルギー危機の教訓は、企業経営の要諦とは異なり、「選択と集中」は危険であるということだ。侵攻直前の21年秋から欧州では、風が吹かずに想定された風力発電量が得られず、突然大幅に必要となった化石燃料が高騰している最中にウクライナ侵攻が起こった。欧州ではその後、全振りしていた地球温暖化政策の〝揺り戻し〟が起こった。


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