Marathon Initiative代表のエルブリッジ・コルビーとスタンフォード大学のオリアナ・スカイラー・マストロが、米国はウクライナに気を取られるのではなく台湾にもっと目を向けるべきであり、軍事資源を欧州からインド太平洋に移し中国と対峙すべきである、とする論説を2月13日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)に寄稿している。
WSJの論説は、現在進行中のロシアのウクライナへの軍事侵攻と、近い将来に有りうるかもしれない中国の台湾への軍事侵攻を比較して論じている。その結論は、ウクライナの場合より、台湾の場合の方が米国や同盟国にとってはるかに重要な意味を有するのであり、台湾から目を離すな、というものである。
興味深い議論であるが、果たしてウクライナと台湾の二つのケースをそう単純に切り離して比較できるのかと言わざるを得ない。目下、中国はウクライナの情勢を虎視眈々と眺めているに違いない。
習近平体制から見れば、現在のウクライナの危機は、米国がこの危機において、いかに断固とした行動をとるか、あるいは優柔不断な対応を取るかを見極める上での恰好の判断材料となろう。もし、バイデンの行動がそれほど実行力を伴わないものと判断されれば、中国は台湾統一への好機到来ととらえる可能性があり、中国の台湾への脅威が急速に高まることもありうる。
ウクライナと台湾の情勢は、そのような意味で相連動している、との前提に立って、以下(1)から(3)に要約する本WSJの論点を読む必要があろう。
(1)ウクライナへのロシアの軍事的侵攻は世界の安全保障にとっての重大な危機であるが、見落としてはならないのは、台湾をめぐる問題は、ウクライナをめぐる事態よりさらに重大なものであるということだ。
米国にはもはや軍を世界中に派遣するほどの余裕はない。中国は、ますます攻撃性を強め、人民解放軍は20年前の解放軍ではなく、極超音速機能をもった軍を展開できるようになっている。中国の台湾に対する脅威は差し迫りつつある。習近平は「中華民族の復興」というスローガンを掲げて、台湾統一への構えを見せている。
(2)米国はアジア・太平洋地域における自らの信頼性を保持するためにも、台湾を守らなければならない。台湾は西太平洋の第一列島線に位置する要衝の地にある。もし台湾が中国の手に落ちれば、米国は日本、フィリッピンのような重要な同盟国を守ることさえ難しくなってくる。
台湾は経済的に見て重要で、米国の第9位の貿易相手国であり、半導体の先端技術をほぼ独占している。もし台湾が取られれば、米国はそれらへのアクセスを失うことは間違いない。
(3)バイデン政権は今月、東ヨーロッパに6000人以上の軍を派遣したが、さらに多くが展開されることとなろう。それでも、ロシア、中国との二正面作戦を取ることが出来るほどの余力は米国にはなさそうだ。
ヨーロッパ防衛のためには、ヨーロッパの国々が前面に出て、自らウクライナをめぐる危機的状況に対応することだ。ヨーロッパはそれを行うだけの能力をもっている。これに比し、台湾をめぐるアジア太平洋の状況は異なり、台湾は孤立化しやすい環境下にある。
端的に言って、台湾はウクライナより重要である。米国としては台湾防衛のために、もてる政治的、外交的、軍事的資源を最大限有効に使わなければならない。