世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年2月26日

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 しかし他方、尖閣と南シナ海における衝突回避のための各論部分については、幾つかの不明瞭な問題点が含まれており、本提言の趣旨が十分に煮詰まっていないことが分かります。

 特に、尖閣については、「法律上」(de jure)と「実際上」(de facto)という法律用語を援用して、「de jureでは尖閣諸島は日本の領土であり、係争問題はそもそも存在しない、しかし、de factoでは中国などが独自の主張をしていることを認める」と述べています。更に、そのような主張を「中国等が他の交渉において述べることを認める」と言います。

 果たして中国がこのような法律用語を受け入れるか、という疑問以前に、異なった解釈を可能にするような妥協案は事態をより混乱させる可能性が大きいです。かって台湾における米国AIT代表をつとめたR. Bushは中国・台湾問題についての一級の専門家ですが、この用語の使い方はあたかも「de jureでは台湾は中国から独立していないが、de facto では台湾はすでに独立している」という類の論法を思い起こさせるものがあります。

 中国共産党は自分の土俵の中に相手を引きずり込み、自分の解釈を確保・拡張することに極めて長けています。中国との間で曖昧な解釈を残した場合、結局中国は、「日本は尖閣を係争地として黙認した」とか「日本は棚上げ論を認めた」と、後で宣伝することになるでしょう。

 Bush等が日米同盟の重要性を十分に認識して本提言を行っていることは行間からも読み取れますが、他方「ちっぽけな岩や島をめぐって同盟国や友邦のために戦争すること」を回避したいと述べているのは、米国人の本音の一端でもあるでしょう。

 米国から見ると、単なる岩か島の問題に見えるかもしれませんが、実際には、尖閣問題が出てきたから、日中関係が悪化したというよりも、相違、対立が潜在的に存在するからこそ、その対立が島の領有をめぐる問題という形を取って表面化した、と見る方が実態には近いように思われます。特に、中国共産党にとっては、「日本の不当」を難詰することが、自国民のナショナリズムを喚起し、困難を抱える体制を維持するための求心力として働くということであれば、これは、単なる岩や島の次元を超えた重要問題ということになります。

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