2023年2月5日(日)

Wedge REPORT

2022年3月16日

»著者プロフィール
閉じる

馬場未織 (ばば・みおり)

二拠点居住ライター

日本女子大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターに。2007年から平日は東京、週末は千葉県南房総市の里山の二地域で居住する。田舎暮らしなどをテーマに執筆活動を展開。南房総の里山と都市に暮らす人をつなぐNPO法人南房総リパブリックの理事長も務める。著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

介護保険制度を使えない、使わないという市民

 まず前提として、介護保険制度自体の認知度の低さが問題であると、齋藤教授は指摘する。制度自体は2000年に施行されているが、家族介護者にアンケートを取ると「申請の仕方が分からない」「介護ヘルパーに何を頼んでいいか分からない」「家族での介護が基本だと思っている」という回答が依然多いという。「うちのおばあちゃんは認知症ではない」と家族から否定されヘルプを拒む場合も多く、認知症の家族がいることを恥と考える風潮も消えていない。

 65歳以上の認知症患者は6人に1人であり、介護が必要になれば本人も周囲も生活が一変するほど大変になる。そうした現実や介護保険制度については、国や自治体、地域包括支援センターなどが率先して情報共有に務めるべきだとも言えるが、本当に情報が必要な人にそれを届けるのに有効なのは、友人や顔見知りのご近所から伝え聞く、という形だと齋藤教授は解説する。ネットリテラシーのない世代が情報をキャッチできず介護を抱え込んでしまう時、友達から「保険制度が使える」と聞けば、自分も申請してみようかという気になる。

 また、地域によってはご近所がその役割を果たす。千葉県館山市にある安房医療福祉専門学校教員で、自らも訪問看護事業に従事していた西村禎子氏は、近隣の高齢者の認知症状を「ゴミ出し」で察知する例もあると話す。

 「ゴミの分別ができなくなっていたり、ゴミ袋が違っていたりと、いつもの様子ではないことが分かることで気がつきます。本人からアクションを起こすのは難しいので、気づいた周りが公的支援を受けられるようにとサポートをする。それだけで高齢者のその後の人生は変わり、地域の安心感も保たれます」

 情報を得ることができる周囲の人間が、それを当事者に届けていく。ネットリテラシーに世代格差があるこの時代こそ、その谷間に落っこちてしまう人たちを救うために必要なふるまいがある。齋藤教授は「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)は、地域社会から隣のおばあちゃんの要介護にまで影響し、国全体の社会保障費の抑制にもつながる」と強調する。

信頼関係の中で利用者が事業者を生かす

 介護保険制度を利用して訪問介護や訪問看護のサービスを受ける時、実態としては定められた範囲内のサービスにはない負荷をかけてしまう局面がある。介護を拒む高齢者への説得や、「ものを取られた」などの認知症特有の被害妄想への対応、泉のように湧き上がる不安や不満、愚痴を聞くなどといったマイナスの感情を引き受けるコミュニケーションなどである。


新着記事

»もっと見る