2024年11月22日(金)

世界の記述

2022年4月13日

 第一次世界大戦時、フランスは、1915年に起きたトルコによるアルメニア人大量虐殺(ジェノサイド)を非難してきた。2001年、法的にジェノサイドが認定されると、シラク元大統領がアルメニアの首都で、「すべての国は、悲劇と過ちを認めることによって成長する」とトルコに罪を認めさせる演説を行った。

 フランスは、ジェノサイドから逃れるアルメニアの避難民約3万人を受け入れた国だ。ナゴルノ・カラバフ紛争が激化していた20年10月、マクロン大統領は、トルコが300人の傭兵や聖戦をアゼルバイジャンに派遣したとし、「トルコは一線を超えた。受け入れ難い」と非難していた。

 これに対し、トルコのエルドアン大統領は、「米露仏3カ国は、アルメニアに武器支援している」と抗議。その後、フランス各地で相次ぐイスラム教徒によるテロ事件問題でさらに溝が深まり、フランス製品の不買を訴えるなど、事態がエスカレートしたのは記憶に新しい。

欧州安保協力機構も機能麻痺

 ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦活動を行ってきたのは、ロシアだけではない。この係争地の紛争解決は、1990年代から続く欧州安保協力機構(OSCE)ミンスクグループが中心的な役割を果たしてきた。共同議長を務めてきたのは、ロシアと米国とフランスの3カ国。しかし、ウクライナ危機によるロシアの軍事侵攻が、3カ国のOSCEミンスクグループの機能を事実上、麻痺させているのも事実だ。

 2020年11月の停戦協定以降、ナゴルノ・カラバフの平和維持活動を行なってきたのは、ロシア軍だけだ。コーカサス諸国を専門とする「OCメディア」によると、アルメニアが国連によるロシアのウクライナ軍事侵攻非難決議に棄権したことや、ドネツクとルガンスク両州の独立を容認しているのも、このような背景があるからだと分析する。

 アルメニアのティグラン・グリゴリアン政治アナリストによると、今後のロシア側の狙いは、ベラルーシ同様、アルメニアをロシアの支配下に置くことだという。ウクライナ危機が終焉すれば、「アルメニアは複雑な状況に追い込まれる」と分析。「ロシアと西側諸国の関係悪化は、ナゴルノ・カラバフ係争地の脆い安全を脅かし、将来、さらなる不安をもたらすだろう」と指摘している。 

 ブリュッセルで4月7日に行われた和平交渉に向けた会談で、シャルル・ミシェル欧州理事会議長も、「交渉は、両国にとって良き方向に動いている」と言及しながらも、「すべてが解決できたわけではない」と曖昧な言葉で締めくくっている。

 ナゴルノ・カラバフを拠点にするロシアの目論みは、一体何なのか。それは、旧ソ連の復活か。ロシアのウクライナ軍事侵攻は、領土拡大の序章にすぎないのかもしれない。

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