アルメニアのミルゾヤン外相は3月15日、同国のメディアに向け、「停戦協定違反だ」と指摘し、「ナゴルノ・カラバフ紛争は領土問題ではない。それは権利の問題だ」と主張した。これを受け、ロシア軍は3月29日、ナゴルノ・カラバフでの平和維持活動を補強した。ウクライナへの軍事侵攻で、兵力不足が叫ばれるものの、係争地には、現在、2000人のロシア兵が駐留しているようだ。
アルメニアのティグラン・グリゴリアン政治学者によると、アゼルバイジャン軍は、ロシア平和維持軍の存在にもかかわらず、「パルー地区を占拠しているため、2月22日から地元住民の避難が続いている」と指摘。「この地域の軍事的な緊張度は、非常に高い」との見解を示している。
ナゴルノ・カラバフは、現状、アルメニアに実効支配されているが、世界的にはアゼルバイジャンの一部とみなされている。旧ソ連だった両国は、1988年〜94年まで血みどろの争いを続け、約3万人が死亡。アゼルバイジャンは、20%の領土を失い、100万人に上る避難民を出した歴史がある。
トルコやフランスの微妙な立場
アゼルバイジャンとの関係が強いトルコは、この係争地問題は、ロシアの領土拡大だとみなしている。トルコのチャブシオール外相は2月24日、ロシアの平和維持活動について、「受け入れ難い。深刻な国際法の侵害だ」と非難している。
しかし、トルコは微妙な立場に置かれている。ウクライナ危機で、西側先進国が科すロシアへの経済制裁には反対を表明している。トルコはむしろ、ロシアの新興財閥(オリガルヒ)の入国を歓迎するばかりか、トルコ国内でのビジネス展開も認めている。要するにトルコは、ロシアのナゴルノ・カラバフ駐留や、ウクライナへの軍事侵攻に反対しながらも、ロシアとの関係を断ち切れずにいる。それはなぜか。
トルコは、2021年から通貨のリラが47%急落していることから、ロシアの経済協力を必要としているからだ。中でも、小麦は70%、天然ガスは45%がロシア産。その上、トルコを訪れる外国人観光客の19%(21年)がロシア人である点も無視できず、その数は、年間約470万人に上っている。
歴史を遡れば、両国は16〜20世紀にわたり、10回の戦争を経験している。ここ最近では、15年にトルコがロシアの旅客機をシリア上空付近で撃墜し、両国の外交に亀裂が走った。それ以後、シリア、リビア、ナゴルノ・カラバフを巡り、トルコは、ロシアから制裁を受け続けている状態なのだ。
さらにトルコの立場を複雑にしているのが、ウクライナとの防衛関係だ。21年から、トルコは、ナゴルノ・カラバフや、現在のウクライナ危機で威力を発揮しているドローンの製造工場をウクライナと共同で設置している。その上、年間約200万人のウクライナ人がトルコを訪れ、外国人観光客の数では3番目に多い。つまりトルコは、ロシアとウクライナの板挟みにあっている。
微妙な立場にいるもうひとつの国がフランスだ。歴史的にも、フランスはアルメニアとの結びつきが強く、ナゴルノ・カラバフの紛争とも無縁でない。