3月31日付の米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のサイトで、同研究所のパトリシア・オブライエンが、中国とソロモン諸島との安全保障協定の案文が明らかになったことでソロモン諸島が太平洋の引火点になる可能性があると警告している。
本年(2022年)3 月末、ソロモン諸島が中国との安全保障協力(security cooperation)の協定を締結しようとしていることが、明らかになった。3月31日、ソロモン政府は安全保障協定に「仮調印」したと発表した。中国も同日、協定に「基本合意」したと発表した。
オブライエンは、
① 中国・ソロモン間の安全保障協定は、中国軍の太平洋進出、プレゼンスをもたらすことになる、
② ブリンケン米国務長官が今年2月に大洋州を訪問し、在ソロモン米大使館の再設置を発表するなど、太平洋の島嶼諸国との関係を強化し、中国をけん制する中、かかる中国の動きが具体化している、
③ (西側諸国の)太平洋への再認識が遅すぎたとの感は否定できない、
④ この協定とソガバレ政権にはソロモン諸島内外で反対が高まっている、
とする。オブライエンの論説は、バランスの取れた概観である。
間もなくガダルカナル戦(1942年8月連合軍上陸)の80周年になる。オブライエンは、ソロモン諸島の地勢学上の重要性は今も昔も変わっていないと指摘する。頷ける。
中国とソロモンのソガバレ政権は、執拗に関係強化を推進している。この安全保障協定が発効すれば、中国は太平洋への軍事的進出の重要な足場を手に入れることになる。中国とソガバレ首相は相互に利害が一致している。
中国は戦略的な場所にプレゼンスを築くことが出来る。他方、ソガバレは政権維持の重しと財源を得ることが出来る。同人は強気を崩していない。
ソガバレは 2003年以降の対豪関係に不満を抱いているとの見方もあり、豪州との均衡を図るために中国を使っているのかもしれない。また、国内反対派(台湾支持)を抑えるために中国を利用しているのかもしれない。しかし、それらは危ない遊びである。
日米豪NZなどは、南太平洋の島嶼諸国に対する対応を強めていく必要がある。南太平洋を南シナ海のようにしてはならない。米国が1993年にソロモン諸島の大使館を閉鎖したのは今となれば間違いだった。太平洋の島嶼諸国と付き合うに当たっては、ローカルなセンチメントに配慮していくことも重要である。