中国政府も救済に動いた?
前述の通り、ニッケル価格が暴騰した結果、青山集団は、マージンコール(追加証拠金)を求められて、その金額は30億ドル以上に膨れあがった。金融機関に駆け込んだが、担保がないので誰も貸してくれない。このまま追証の金額がさらに急騰すると、さすがの世界一の中国の鉄鋼企業も倒産してしまう恐れが出てきた。
中国政府は、民間ベースでは救済をすることができない。そこで政府が動いて関係する金融機関に支援を依頼することになった。たまたま青山集団は、世界中に鉱山を持っていたので、その権利を担保に入れて何とか世界の金融機関から資金を引き出すことができたわけだ。
LMEの責任者は、「一般の需要家のトラブルを回避するための措置」だと言い訳をして、1週間の市場休止の決断をした。しかしながらこの問題は全世界の取引関係者にとって納得できるものではない。真の解決は今後の調査が待たれるところだ。
ある消息筋からの情報によると、青山集団はJPモルガンを通して5万トンのポジションの追証10億ドルと、他の外国金融機関約10社との合計15万トンの追証30億ドルの支払交渉に入ったという。合計15万トン、約30億ドル以上というから、追証額では前代未聞の金額だ。
報道等を調べた範囲内では、金融機関はJPモルガン、BNPパリバ、スタンダードチャータード、サクデン、UOB、DBS、ICBCだが、皆、口を堅く閉ざしているという。これらの金融機関にはLMEとの仮決済の担保として、項光達氏からインドネシアのニッケル鉱山利権などが差し出されたことが推定される。
この「ニッケル事件」は、ウクライナ侵攻の影響とはいえ、商品取引システムの不備を証明した結果、世界市場に悪しき前例を残した。
筆者に言わせて貰えば、この前代未聞の裏の犯人はプーチンの経済のバランス感覚の欠如とも言えるだろう。西側の制裁方針の無秩序と北大西洋条約機構(NATO)の足並みが揃わないことも遠因となった。
表の犯人は青山集団(項光達氏)で、確信犯だと言っても過言ではない。なぜなら、いずれにせよ救済されると見込んでいたからだ。また、追加証拠金が出せなければ商法違反になることが分かっていたという意味では、故意犯だと言うべきだろう。
そして、青山集団の意図を知っていたであろうという点で、金融機関も共犯関係にあると言えるかもしれない。この騒ぎに乗じて「空買い」を仕掛けた一般トレーダーは、被害者とも言えるが、自業自得と言ったほうがよい。
何よりもLEMは、銀取引で倒産したハント兄弟、銅取引で、2800億円損失を出した住商事件のようにルール違反は認めないとの指導をするべきだった。