「やっぱり成熟した放牧豚は、イノシシに近いというか、天然の脂の良さがある。だしがよく出ますよね」だから赤ワイン煮にしろ、ビール煮にしろ、煮込み系もお勧めだ。
他にも、岩国のと畜所から直接、取り寄せた牛肉のハラミやイチボを味わえる。
祝島産の放牧豚のヒレ肉ロースト
もう何度か味わった氏本さんの豚のグリルもパテも、味わい深く、食べ応えがしっかりありながら、脂の質がいいのか、食べた後はちっとも胃が重たくならない。
氏本さんが、これまで何よりも励まされたのは、この金子さんの「氏本さんの豚は、何だか顔が笑っているようだ」という言葉だった。
時間をかけて大事に育てた命を、ありがたくいただく。それを申し分なく、おいしい料理に変えてくれる。普段は物静かな料理人のそんな言葉が、氏本さんには何よりも嬉しかったという。
屋上やベランダで自ら栽培する無農薬野菜
都会のど真ん中のビルの屋上とは思えない本格的な野菜づくり
しかし、『エピス・カネコ』には、まだまだ驚きがある。
このセメント打ちっぱなしのビルの屋上で、夫婦は、つけ合わせの野菜を有機栽培で育てているのだ。もともと大家さんが緑化していた屋上に無数のプランターを並べ、タイムやバジル、トマト、キュウリ、プチベール……年間通じて何十種類も作っている。そこで、この店は、つけ合わせの野菜がやけにおいしい。瑞々しく、個性のあるメインディッシュに決して負けない味わいがある。
プランターで育てると言っても、本気で土づくりをしている。一部は、土を再生するためのスペースになっている。木枠を作り、その中に収穫後の土に米糠、油かす、鶏糞を混ぜた物と野菜くずに籾殻、米糠を混ぜた物を投入、撹拌し再発酵させ、熟成したものに苗の植え付けや種をまいているそうだ。