故郷の素材を使えば、店にも季節感や地方性が出せる。それにお客にも、生産者にのためにもいい方向だと考えた。
「そのうち、お客さんから野菜がおいしいね、と言われたので、その頃はまだ築地から魚は仕入れていたのですが、母親の実家がスーパーをしていた関係で、次は魚も直接、瀬戸内の市場から仕入れ始めた。築地の天然魚は、何万円もする料亭との取り合いになりますが、地元ならば、そんな心配もない。それに海の違いでしょうか、地元贔屓かもしれませんが、瀬戸内海の魚は、甘さと香りがやっぱりいい」
そこで、この店では、天然の鯛、サヨリ、タチウオ、春と秋のサワラ、冬の甲イカやコチといった魚を味わうことができる。
「フグのある下関は別にしても、山口県の生産物は、中央市場を睨んだものではないんですね。だから、最高の天然の魚でも、それなりの価格で手に入る」
「嬉しかったのは、あるお客さんから、肉はお金を出せば、ステーキハウスにしてもおいしい店がある。けれども魚は、高い店でもまずいことが多い」
そんなわけで、新鮮な魚目当ての常連も多い。
祝島の希少な放牧豚に魅かれて
『エピス カネコ』のことを教えてくれたのは、ある編集者で、彼女を、この店へと導いたのは、祝島という瀬戸内海の小さな離島の放牧豚だった。彼女は、そのハート型をした人口500人ほどの島に惹かれて何度も足を運ぶうち、ここで放牧豚を育て始めた氏本長一さんという人に出会った。すると、その氏本さんに、東京にも自分の豚を扱っている店があると教えられたのが、この『エピス カネコ』だった。
どうやって、金子さんは祝島の放牧豚に行きついたのだろう。
「氏本さんの高校の同級生が、うちのお客さんだったんです。その方が、今度、島に戻って放牧豚を飼い始めたというので、さっそく紹介してもらったんです。祝島を眺めて育ってきましたからね」
こうして金子さんが島を始めて訪れたのは、2008年のことだ。氏本さんも、北海道から帰郷してまだ1年めのことだった。2人は意気投合し、その場で話が決まり、金子さんは2頭めからずっと、これを取り寄せている。