2024年4月27日(土)

WEDGE REPORT

2013年3月26日

 馬総統は尖閣問題の対応をめぐり台湾内部で「弱腰」との批判にさらされている。支持率向上のため対日強硬パフォーマンスに走ってもおかしくない局面で「平和イニシアチブ」を提案したことは評価に値する。

 台湾は、世界のGDPの上位3国である米中日の影響力が複雑に交差する場所にある。できるだけあいまいな形で三方から利益を確保するというのが台湾の外交戦略である。しかし、領土問題が先鋭化すれば、いままではあいまいにできたことができなくなり、間に挟まれる台湾は厳しい立場に置かれる。馬政権が日中の衝突を警戒し対立をエスカレートさせたくないと思うのは本心である。

日本にもメリット
「平和イニシアチブ」

 同時に、「平和イニシアチブ」は決して純粋な平和主義ではない。馬総統は、日中が対立する中で台湾の利益を守り、台湾の立場を強化したいという狙いで提案している。馬政権は2008年の発足以来、中台関係を改善し、台湾経済を中国経済に組み込み、中国の経済成長から恩恵を得る構造を作った。このことは、台湾内部で、馬は中台統一に向かっているとの強い批判を招き、日本においても同様の批判が見られるが、馬は日米安保を後ろ盾とする戦略を変えていないし、政治的には中国側が希望する統一に向けた協議には応じていない。

 馬の目的は中台統一ではなく、台湾独立派の弱体化と中華民国の強化である。国民党への愛着と中華民国イデオロギーが強い馬は、台湾内部の主導権争いで民進党・独立派を弱め国民党の正当性を再強化し、中国共産党に対しては、中華民国を承認させるのは無理でも否定されない状態に持っていきたいと考えている。

 このように「平和イニシアチブ」は台湾・中華民国の利益に立脚するが、日本にもメリットがある。まず、中国も平和的解決を唱えるが、日中台の中で武力行使に出る可能性が最も高いのは中国である。対立をエスカレートさせないことや対話の重視など馬提案の多くは日本としても賛同可能であり、中国への牽制ともなる。国際法に則った解決を提案していることも日本にプラスである。


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