交渉状況だが、昨年10月に具体的提案のやり取りが行なわれ、双方とも相手側の提案を前向きに受け止めたようである。同11月30日には東京で中断後最初の予備会合が開かれ、次の予備会合も日程に上っている。日台とも合意を目指して動いていることは間違いないが、不穏な動きもある。中国側は日台漁業交渉に対し公式コメントを出していないが、内心では快く思っていない。昨年11月以降、「漁業のために主権を犠牲にしてよいのか」と中国側の意に沿う言論がたびたび台湾紙に掲載され、馬政権に圧力をかけている。
漁業交渉の決裂は中台連携を招く
1月24日、台湾の保釣団体活動家が乗る抗議船およびそれを護衛する台湾海岸巡防署の巡視船が尖閣海域に入り、海上保安庁の巡視船が放水によって対応した。抗議船を出した保釣団体の意図は、日台漁業交渉の雰囲気をぶち壊し、領土問題で中台連携を促進することにあったと考えられる。水面下で中国側から横槍が入っているのである。
仮に漁業交渉が物別れに終わった場合、中国の影響力が強まることは必至である。また、台湾からは保釣団体の抗議船と多数の台湾漁船が尖閣海域に向け出港することは確実だ。抗議船は尖閣上陸を目指し、漁船は海上デモを行なう。中国の公船が頻繁に尖閣諸島周辺を航行している状況に台湾の抗議船と漁船が加わり、海上保安庁の巡視船と対峙するという事態は避けなければならない。それは現場からの中台連携に発展するし、その警備と対応にかかる負担、日本政府が受ける政治的圧力のリスクを総合すると、日本にとって非常に大きな損失をもたらすことになる。
それ以上に大きな損失は、日本人と台湾人との友好感情にひびが入ることだ。東日本大震災の時、台湾から送られた義捐金は200億円にも達した。人口2300万人の台湾の義捐金は、アメリカや中国より多かったのである。台湾では子供からお年寄りまで多くの人が日本の被災者を心配し励まそうと日本に心を寄せてくれた。日本と台湾は、自由と民主の価値、人道援助の精神を共有している。その日台の友好の絆を守れないことになれば、日本外交の最大の失敗となるであろう。漁業交渉に対しては戦略的に臨む必要がある。
首尾よく漁業交渉がまとまっても、それで終わりにせず、日台の協力関係を強化・深化させていくべきである。日中の対立はこの先長期化が予想される。馬総統の「東シナ海平和イニシアチブ」の枠組みも活かし、東シナ海の対話を模索することは日本にとってもメリットがある。今後は、日本側も積極的に台湾の民意にアピールしていくことが必要だ。
日本と台湾が領土問題を抱えながらも民間交流を絶やさず対話を維持する姿は、時間はかかるが中国の知識人・中間市民層にも次第に認識されるようになり、暴力的な反日行動がいかに無意味なことかを考えさせる契機となるであろう。
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