バイデン政権は、5月16日、トランプ政権が導入した渡航制限やビザ発給制限、キューバへの送金の制限等を部分的に解除する措置を発表した。バイデンは、キューバとの外交関係を正常化したオバマ政権の成果をすべて覆したトランプに対し、キューバとの関係を再構築することを公約として当選したわけであるので、本来もっと早期に取り組んで良かったものである。しかし、党派を超えた対キューバ強硬派の反対や、昨年夏のキューバ政府による街頭抗議活動の弾圧事件、更には、キューバ当局の関与が疑われた米国大使館員の体調不良問題が未解決等の事情もあり、着手が遅れていた。
今回の措置は、トランプの導入した規制を全て撤廃したわけではない。これは、中間選挙を前に、あまりにキューバにとって有利な措置を取れば、強硬措置を求めるキューバ系米国人の多いフロリダ州等での民主党の票に影響することから、米国の利益にもなることが説明できるかの視点から行われた選択的措置と考えられる。
バイデン政権は、翌17日には、ベネズエラ産原油に対する規制措置を緩和する措置もとった。具体的には、以前現地で活動していた米国石油企業(シェブロン)に生産再開についてのベネズエラ政府との協議を開始することを許可したもので、石油制裁の緩和に向けた最初のステップと見なされる。
そのような方向性は、3月に既に示され、米国は、これを中断しているマドゥーロ政権と反政府側との民主化交渉を再開させる梃子とすると共に、ウクライナ侵攻に対する制裁として輸入を禁止したロシア原油の代替輸入元とする意図があると見られた。この措置についても、民主化や人権についてマドゥーロ側のコミットが何ら得られる保証がないとして、民主党の人権派や共和党の強硬派から懸念や批判を招いている。
これらの措置は、6月6日から予定されている米国がホストする第9回米州サミットへの招待国を巡って米国とメキシコ等のラテンアメリカ諸国との間で揉めている状況の中でとられたが、これは、偶然の成り行きであったのであろう。このサミットは、バイデンが、ラテンアメリカ外交を再構築する舞台となるはずのものであったが、独裁のトロイカであるキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを同サミットに招待する意図は元々なかったと見られる。
ところが、メキシコのロペス・オブラドール大統領は、5月初めのキューバ訪問から帰国の後、すべてのラテンアメリカ諸国が招待されないのであれば同サミットに出席しないとの立場を表明し、これにボリビア、ホンジュラス、カリブ海諸国が同調した。また、ブラジルやグアテマラもバイデン政権に対する不満から大統領の出席が疑問視されており、米州サミットが成り立つのかという状況に立ち至っている。