今回のテーマは「バイデンが韓国のアイドルグループBTSと対談する本当の理由」である。ホワイトハウスで5月31日にジョー・バイデン米大統領が韓国の7人組男性アイドルグループBTS(防弾少年団)と対談した。
その目的は新型コロナウイルス感染拡大後、社会問題となっているアジア系住民へのヘイトクライム(憎悪犯罪)および人種差別について議論することだという。バイデン大統領とBTSは多様性(ダイバーシティ)や包含(インクルージョン)に関して意見交換した。なぜバイデン氏はこのタイミングでBTSとホワイトハウスで対談する必要があるのか――。
バイデンを悩ます「白人至上主義」「取り換え理論」と「銃」
東部ニューヨーク州バッファローで18歳の白人男性が銃を乱射して、黒人10人を殺害する事件が発生した。この白人男性は、非白人が白人や白人文化を消滅させるという「取り換え理論(Replacement Theory)」に影響されたという。
取り換え理論は白人至上主義者の間で始まり、その後共和党右派の中で主流になりつつあると、米公共ラジオ(NPR)は報道した。この理論の背景には米国社会における人口動態の変化がある。白人の全体に占める人口割合は2010年から20年の10年間に、72.4%から61.6%に減少した。約11ポイントも下がったのだ。
AP通信とシカゴ大学の研究機関NORCの共同世論調査(21年12月1~23日実施)によれば、約3分の1が「選挙で有利に立つために米国民を移民に取り換える活動が行われている」と信じている。白人の人口割合が減少しているからこそ、取り換え理論は非白人に対する脅威と不安を煽り、効果を発揮するのである。
10万人当たりの死者数を見ると……
APMリサーチラボによる調査(22年5月4日時点)では、米国内における10万人当たりの新型コロナウイルスによる人種別死者数は、米国先住民、太平洋諸島出身者、黒人、白人、ラテン系、アジア系の順に高い。中国武漢が新型コロナウイルスの発生源となっているが、10万人当たりの死者数はアジア系が最も少ないのだ。このあたりにも、アジア系住民に対するヘイトクライムの動機づけ要因が存在するのかもしれない。
仮に新型コロナウイルスによりアジア系が白人文化を消滅させようと企てているという陰謀論が拡散すれば、銃によるアジア系住民を狙った事件が発生するのは当然だ。バイデン氏はBTSとホワイトハウスでヘイトクライムに関して意見交換を行い、アジア系住民を守っているというメッセージを発信したいのだろう。