2024年4月29日(月)

研究と本とわたし

2013年4月3日

 その後、試行錯誤しながら研究を続けていくうちに、文明という大きな枠のなかで人口の波動を捉えるという方向へと移っていきました。そこまで来ると、また小学校の頃の興味に火がついたんですよ(笑)。人口というのは、病気や食料といった生物の問題に関わってくるし、気象、気候などにも影響を受ける。つまり“文明”ですね。それでこれまでやってきたことが何となくひとつの円のように繋がったと思って、それをテーマに書いたのが、私の初めての著書『日本二千年の人口史』(PHP研究所)です。これは幸いかなり好評を得て、エバンジェリストというか、歴史人口学という分野を世の中に知ってもらう役割は果たせたのではないかと自負しています。

 ただ、このときはまだ“文明”という言葉を使うと、ある種胡散臭いとみなされるような時代でした。そのため“文明”という言葉は表には出さなかったのですが、その後、『日本の歴史』(講談社)というシリーズ書籍が刊行されるときに、私が担当した巻で『文明としての江戸システム』というふうに、タイトルに“文明”をはっきり打ち出しました。このシリーズは、網野善彦さんが編集委員長で、私は近世を担当する編集委員でしたが、網野さんの計らいで、近世の特別巻については、私一人が執筆を任されたのです。おかげで思う存分、自分の考え方を展開することができて、網野さんにはとても感謝しています。

――最後に、これから取り組みたい研究テーマについて教えていただけますか。

鬼頭氏:いずれは近世だけではなくて、私なりの日本文明史というのを著したいと思っています。また、現在は産業文明の最後の段階に来ている、というのが私の考えなので、その次の世界を模索する。

 例えば、エネルギーのタイプとか、都市をどうするかとかさまざまな問題がありますが、最近気になっているのが、人の暮らしにおいてリズムがなくなっていること。季節感が減ってきているとか、一日の昼夜の区分がなくなって、いつでも何でもできるというようになってきていて、それらが人間の根源的なパワー=生命力を失わせているのではないか、という気がします。だから基本的なリズムを新しく創りだしていかねばならないのではないかといったことを考えているのですが、まだまだアイデア段階ですね。

――どうもありがとうございました。

鬼頭宏(きとう・ひろし)
上智大学経済学部教授。上智大学経済学部助教授を経て現職。単著に『日本二千年の人口史 経済学と歴史人類学から探る生活と行動のダイナミズム』(PHP研究所)、『人口から読む日本の歴史』(講談社学術文庫)、『環境先進国・江戸』(PHP新書、のち吉川弘文館)、『日本の歴史19 文明としての江戸システム』(講談社)、『図説人口で見る日本史 縄文時代から近未来社会まで』(PHP研究所)、共著に『地球人口100億の世紀―人類はなぜ増え続けるのか』(ウェッジ)、共編著に『歴史人口学のフロンティア』 (東洋経済新報社)などがある。

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