2024年4月27日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2022年6月11日

 フィンランドの教育が重視するのは、何を学び、どう生きて行くのかという点であるという。そうしたことを子どもたちに指導するためには、教え方も重要となる。

 教師の側も力を身につけなくてはならない。フィンランドでは小中学校と高校の先生は全員修士号を持っているという。子どもが自立した学習者となり、生涯にわたって新しいことを学び続けるためには、教師が子どもへ好ましい影響を与える役割があり、それ故に教師も高い能力を身につけておかなくてはならないからだと本書は教えてくれる。

全て理想的でないからこそ学びが多い

 さらに本書で紙幅を割いて紹介されるのは出産や子育てに関する部分である。著者自身がフィンランドで出産し、子育てに夫とともに取り組んできたからこそ、本書に込めた著者の思いには説得力がある。多くの支援策や手当など、社会的、経済的に子育てをサポートする体制は非常に恵まれており、日本よりもはるかに安心して子育てに向き合える様子が見て取れる。

 もちろん全てがバラ色で理想的な環境であるわけではない。長い時間の中でさまざまな試行錯誤を経験して現在に至っている。著者自身も本書で「今フィンランドで暮らすのは、とても快適に感じている。ただし、常にそう感じていたわけではなかった。理解するのは、時間のかかるプロセスでもある」と率直に記している。

 ただフィンランドが目指している「ウェルビーイング」、つまり健康で心地よく、快適に安心して暮らせるなどの感覚は、長きにわたって閉塞感に包まれてきた日本にとっても目標とすべき社会環境だ。文化や歴史的な背景が異なる国をそのまま真似することはできないだろうが、持続可能な社会は何かを考えるとき、フィンランドの取り組みは貴重なヒントになるだろう。

   
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