外資企業次々と〝乗っ取り〟するロシア
ただ、ロシアで明るみに出ているのは、透明性が高い形で事業が引き継がれている事例だけではない。
4月には、ロシア事業から撤退した日本の「丸亀製麺」が展開していたうどん店を、フランチャイズ契約を結んでいたロシア側企業が無断で営業を継続していた事実が発覚した。店舗が「マル」という別名称になり、従来とほぼ変わらない事業が継続されていたという。モスクワからの情報によると、店舗は5月末時点でも変わらず運営されていて、利用客もその事実をあまり知らないまま来店していた。
モスクワの丸亀製麺の店舗は2016年に、日本の食材や日本食を売り込んだ成功事例として、当時の世耕弘成経産相(ロシア経済分野協力担当相)が直接視察するなど、日本政府も重視していた事業だった。ロシアのウクライナ侵略でやむを得ず撤退を決めたうえに、事業を事実上〝乗っ取られた〟形になったことは、ロシアの横暴さを多くの日本人に印象付けた。
ほかにも、フランスの自動車メーカー「ルノー」は5月、ロシア法人の株式100%をモスクワ市に、保有するロシア自動車メーカー最大手「アフトワズ」の株式約68%を同国の政府系機関に、それぞれ売却すると発表した。売却額は非公開だったが、ロイター通信は関係筋の話として、それぞれ1ルーブル(約2円)で売却されたと伝えた。
ルノーのロシア事業は同社でフランスに次ぐ2位の規模を持ち、同社は当初、ロシア撤退には否定的な姿勢を見せていた。ただ、ウクライナ側から強い批判を浴び、3月にはロシア工場の停止を決定。ルノーはロシア事業の操業停止に伴い、22億ユーロ(約3000億円)の評価損を計上すると発表している。ルノーもまた、事業売却は、約4万5000人の従業員の雇用を守るためのやむを得ない措置だったとしている。
ロシア事業を停止した米飲料大手コカ・コーラの製品を模倣した商品も相次ぎ登場した。ロシアの有力飲料メーカーが、コカ・コーラの製品とペットボトルの色や名前まで酷似した商品を発売してロシア国内でも話題になった。ただ、「炭酸が弱い」などと批判されているという。
国内生産拡大を狙うプーチン
ただロシア側は、これらの事態に自国の責任を認めることはおろか、事業乗っ取りや模倣品の生産を推奨するかのような動きすら見せる。
「多くの欧州企業はロシア市場から撤退すると表明している。しかし、これは良いことかもしれない」
プーチン大統領は5月下旬、こう述べて、相次ぐ外資の撤退が、自国産業を強める契機になるとの趣旨の発言を行った。外資系企業が市場を開拓した後に、その市場をロシア企業が獲得できるとの考えからだ。