2024年12月22日(日)

プーチンのロシア

2022年5月17日

 ウクライナに侵攻したロシアからの頭脳流出が止まらない。侵攻から約1カ月間でIT分野を中心に約30万人の若い有能な人材が海外脱出し、侵攻の懸念が高まっていた年初からでは数百万人が脱出した可能性も指摘されている。プーチン大統領は侵攻を支持しない人々の排除で「国が浄化される」と言い放ち、彼らに「裏切者」「ハエ」などと侮蔑の言葉を投げつけるが、そのような狂気は若者らの国外脱出をさらに加速させ、ロシアの国力を低下させるのは必至だ。

ロシアから出ていく若者らに対し、プーチン大統領は「裏切者」「ハエ」と罵る(AP/アフロ)

「〝侵略国家の国民〟として生きてほしくない」

 「人間らしく生きていきたかったから、ロシアを去った。プロパガンダはロシア国民、そして私の隣人からも理性を奪ってしまった」

 「ロシアは今後20年間は、普通の世界の仲間入りはできないだろう。僕は若い。20年間も無駄に生きたくはない」

 「私の子供たちには、開かれた世界で成長してほしかった。〝侵略国家の国民〟として生きてほしくなかった」

 ウクライナ侵攻後に、ロシアを脱出した若者らを対象に実施された調査で集められた声には、祖国ロシアに対する絶望的な思いが込められていた。

 ウクライナ侵攻後、どれくらいの人々がロシアを去ったのか。

 オンラインメディア「ノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパ」は5月初旬、今年1月から3カ月間でロシアから国外に出た国民の数が388万人にのぼったとの統計を報じた。これは、ビジネスや観光などすべての国民を含む数字で、そのまま国外脱出者数とみなすことはできないが、それでもウクライナ侵攻への懸念が急激に高まっていた時期と重なっており、そのうちの多数がロシアを離れた可能性がある。

 期間は限られているが、より詳細な調査も実施されている。「OK Russians」と名乗る民間団体は3月中旬、侵攻を受けて国を離れたロシア人約2000人を対象にオンラインで調査を実施。その結果、当該期間に少なくとも約30万人のロシア人が国外に脱出したとの推計を発表した。

 各国メディアに衝撃を与えたのは、調査で浮かび上がった脱出者の特性だ。OK Russiansによれば、脱出者の実に86%が44歳以下の若者だった。職種では、全体の3分の1がIT関連の人材で、それ以外も企業のマネージャーや法律家、心療学者、デザイナー、コンサルタント、ジャーナリストといった、いわゆる頭脳労働者らに集中していた。

 さらに今後、ロシアに「帰国しない」との回答は27%で、「長期間離れる」との答えも41%あった。出国が「一時的なもの」とする回答は12%に過ぎず、成長産業を担う多くの若い人材が、ロシアを完全に捨て去る決意を固めたことになる。


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