プーチンの口から出る冷酷な言葉の数々
このような若者の脱出に対し、プーチン大統領の反応は極めて冷酷だ。プーチン氏は3月中旬、反政権派の出国をめぐり「社会の浄化に必要であり、ただ国家を強固にするだけだ」などと発言した。さらに「われわれは本物の愛国者と裏切り者を見分けることができる。そのような連中は、誤って口の中に飛び込んできた〝小バエ〟のように、路上に吐き捨ててしまえばいい」などと述べたという。
自国民を「小バエ」と呼ぶプーチン氏の思考の異常さは、ウクライナ侵攻に賛同できない多くのロシア人に絶望的な思いを与えたに違いない。プーチン氏は、ウクライナ南部マリウポリでロシア軍と対峙するウクライナの民兵組織に対しても「ハエ」との表現を使っており、このような言葉遣いが何を意味しているのかを、ロシア人が敏感に察知したことは想像にかたくない。
ロシア国民がより良い生活を求め、国外脱出する流れはこれまでも一定程度あった。政権は、反体制派や不支持層の国外脱出を黙認することで、自国を統治しやすくする狙いがあったとみられる。それでもロシア経済は潤沢な資源輸出に支えられ、海外からの人材流入もあり、目立った問題は起きていなかった。
ただ、主要市場の欧州がロシア産エネルギーを遮断する動きを強める中、ロシア政府は従来のようなシナリオを描くことはできない。さすがにまずいと気が付いたのか、ロシア政府は3月末、IT技術者に関しては一定の条件で兵役の「延期」を認める方針を打ち出したが、その程度の施策で事態の収拾が図れるとは考え難い。
ロシアを離れたくても、金銭面や生活上の問題で離れられない〝予備軍〟の若者も相当数いるのは確実だ。プーチン氏が「ハエ」とののしる人々の怒りに、ロシア政府は苦しめられることになる。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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