21世紀の安全保障論

2022年5月1日

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谷 弘 (たに・ひろし)

1963年海上保安大卒、海上保安庁、運輸省、総理府、科学技術庁で勤務。1992年国際原子力機関(IAEA)査察情報処理部長就任、1997年日本原子力研究所理事を歴任。主な著作に『全面核実験禁止条約(CTBT)とその発効に向けた準備作業』(JAERI-Review)、『原子力船むつ計画から改役まで』(日本海事史学会誌)、『海洋開発技術ハンドブック』(共著:朝倉書店)等

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、民間施設への攻撃など世界から非難を浴びている。中でも、原子力施設への軍事行動はロシアも批准するジュネーブ条約で禁じられており、原子力の平和利用を目的にした国際原子力機関(IAEA)憲章にも反する。誤爆や誤射の可能性も考えれば、言語道断の行動である。

チョルノービリ原子力発電所は一時、ロシア軍が占拠していた(Russian Look/アフロ)

侵攻初日から立て続けに施設を攻撃

 ロシアは、ウクライナへの侵攻初日の2月24日から、原子力施設への攻撃に動いた。午後4時頃、チョルノービリ(チェルノブイリ)付近の廃墟でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を開始し、午後6時頃には、チョルノービリ原子力発電所周辺地域を、25日には、原子炉サイトを、ロシア軍が占領した。

 IAEAによると、原発を占拠したものの、死傷者や施設の損傷は報告されていないと、ウクライナ原子力当局から情報を得ている。原発サイトは、事故を起こした4号炉以外の1~3号炉はその後も運転を続けたが、1995年に廃炉が決定し、現在廃止措置の段階にある。IAEAのグロッシ事務局長は、ロシアに対して、ウクライナ原子力施設を危険にさらすいかなる行動も避けるよう自制を呼び掛けた。

 それでも、ロシアの手は止まらない。2月27日、キーウ郊外の放射性廃棄物処分施設(Kyiv SISP)に対するミサイル攻撃がなされ着弾。建物に損傷はなく、放射性物質の漏洩は無かったものの、医療・産業・研究などで発生した放射性廃棄物が保管されていた。

 さらに、3月4日早朝、ザボロジエ原子力発電所(WWER1000、6基)に砲撃が加えられ、訓練棟で火災が発生し、戦闘で死亡者も出たが、原子炉施設(2基稼働中)に被害はなかった。IAEAは周辺の放射線量に「変化はない」としつつ、原子炉に当たれば「重大な危険」を招くと警告した。

 ウクライナ国家原子力規制局の3月4日現地時間午後3時時点の情報として、1号機の原子炉建物が損傷したこと、使用済み燃料乾式貯蔵施設に2発の砲弾が当たったことが発表された。なお、運転員はシフト勤務できているとのことであった。米エネルギー省のジル・フルビー次官(核セキュリティ担当)はMSNBCのインタビューで、ザボロジエ原発への攻撃は小火器が用いられた模様で、原子力事故につながるような損傷は確認していないとコメントしている。

 同原発は、最終的にロシア軍が占拠した。IAEAは3月6日に、ザポロジエ原発は引き続き運転を継続中であると明らかにし、原子炉の運用についてはロシア軍司令官による事前の承認が必要で、露軍が一部のモバイルネットワークとインターネット回線を遮断し、ウクライナ規制当局と同原発の現地職員との通信に障害が起きていると発表した。同原発は、その後もロシア占領軍の管理下で、6基中2基が稼働している。

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