2024年11月22日(金)

21世紀の安全保障論

2022年5月1日

 ウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)では、3月9、11、27日の3回に分けて「国立物理技術研究所」にあるKIPT中性子源施設がロシア軍の砲撃を受け、施設の建屋等の一部が損傷した。同施設は加速器と未臨界炉を組み合わせた「加速器駆動核変換システム(Accelerator Driven System:ADS)」があり、研究開発と医療・産業用の放射性同位元素(RI)の製造に使用されている。

(出所)日本原子力研究開発機構の資料 写真を拡大

 窓・建屋外壁などに多数の損傷、建屋の断熱ライニングに重大な損傷をうけたとされている。核物質は少量で、放射性物質の漏洩は無かった。4月12日のウクライナ原子力規制局のSNSでも、ハリコフの国立物理学研究所にあるKIPT中性子源施設は、継続的に攻撃を受けていると報告がされているが、今のところ放射性物質の漏洩は報告されていない。

 その他の原発は、フメルニツキ―原発が2基中1基、リウネ原発が4基中2基、南ウクライナ原発が3基中2基稼働中である。しかし、南ウクライナ原発は、3月中旬に原発から30キロメートルの距離にあるボズネセンスク市までロシア軍が迫っ来たことがあったが、現在は押し返えされて遠ざかっているものの、4月16日にもベラルーシ側から発射されたとみられる3発の巡航ミサイルが飛来している。

原子力事故を心配する隣国

 ザボロジエ原発は、ウクライナ南東部、エネルホダルにあり、欧州でも最大規模の原子力発電所で、6基の原子炉がある。ここが、攻撃を受け火災が発生したことから、「もし爆発したら、かつてのチェルノブイリ事故の10倍以上の影響が及ぶ」と隣国は心配した。IAEAも周辺の放射線量に「変化はない」としつつも、原子炉に当たれば「重大な危険」を招くと警告した。

 北大西洋条約機構(NATO)は、プーチン大統領を「無謀」だと非難し、ロシアのウクライナ侵攻に一段と強力な対応を求める声が各国で強まっている。

 IAEAは3月3日の臨時理事会で、ウクライナに侵攻したロシアに対する非難決議を賛成多数で採択した。「原子力施設の管理の強奪や暴力などの行為は遺憾」とし、ただちに軍事行動をやめるよう求めた。外交筋によると、理事会を構成する35カ国中、日米欧など26カ国が賛成、ロシアと中国の2カ国が反対した。インドやパキスタンは棄権した。

 決議に法的拘束力はないが、原発事故は何としてでも回避しなければならないという強いメッセージを送ったものである。さらに、3月7日からの理事会冒頭で、グロッシ事務局長は、原発の安全確保について、両国を交えた三者協議を行う用意があると改めて強調した。

 3月30日付のAFPの伝えるところによれば、ルーマニアのアレクサンドル・ラフィラ保健相がロシアのウクライナ侵攻で原子力事故が起きた場合に備えて安定ヨウ素剤を無償配布すると発表した。安定ヨウ素剤には、放射線被ばくによる甲状腺がんなどの発生を予防する効果がある。

ロシア兵が放射線量を上昇させる「自殺行為」

 チョルノービリでは、侵攻直後の2月24日、原子力発電所で、放射線量の上昇が記録された。ウクライナ原子力規制当局の報告では、大型軍用車両が立入り禁止区域の汚染された土壌をかき回したからという。

 ロイター通信の記事では、ロシア兵たちは、原発から約6.5キロ離れた高濃度汚染地域の「赤い森」を、戦車や装甲車で走り、防護服を着用せずに現地に入ったと、ウクライナ人の原発スタッフが取材に述べている。このため、軍用車両で汚染された土をかき回し、きわめて危険な量の放射線にさらされていた模様である。ロシア兵たちは体内被曝を引き起こす放射性物質を吸い込んだ可能性が高いため、この行為は「自殺行為」だとスタッフらは述べている。


新着記事

»もっと見る