2022年6月30日(木)

21世紀の安全保障論

2022年5月1日

»著者プロフィール
著者
閉じる

谷 弘 (たに・ひろし)

1963年海上保安大卒、海上保安庁、運輸省、総理府、科学技術庁で勤務。1992年国際原子力機関(IAEA)査察情報処理部長就任、1997年日本原子力研究所理事を歴任。主な著作に『全面核実験禁止条約(CTBT)とその発効に向けた準備作業』(JAERI-Review)、『原子力船むつ計画から改役まで』(日本海事史学会誌)、『海洋開発技術ハンドブック』(共著:朝倉書店)等

 ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムは、1986年のチョルノービリ原発事故による放射性物質の汚染が深刻な地域で、ロシア兵らが塹壕を掘っていたと指摘。「被ばくで健康被害の兆候が出たことに驚き、慌てて退却したとしてもおかしくない」との臆測も示した。IAEAもロシア軍部隊がベラルーシ方面に向かったとの報告をウクライナ側から受けたものの、ロシア兵らの被ばくの程度は確認できていないという。

 その後の共同通信が報ずるところによると、ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相の発言として、「ロシア軍が一時制圧したチョルノービリ原発近くでロシア兵が被ばくし、75人前後がベラルーシの病院で治療を受けている」という。ロシア兵は防衛ラインを築くために地面を掘り返したという。

 立入り禁止区域は、放射線レベルが高いため、人が入らないように垣根などで囲ったところである。特に高いところは、他の土地から持ち込んだ土砂で覆う覆土をしているところもあるかもしれない。このような所を重車両でかき回すと、高レベルの土砂が表面に現れて、強い外部被ばくを受けるのみではなく、微粒子となった汚染された土壌を鼻や口から吸いこんで体内被曝をすることになる。大変危険な行為である。

ロシア軍が撤退した後のチョルノービリ原子力発電所

 ウクライナ当局が、3月31日にチョルノービリ原子力発電所を占拠していたロシア軍が撤退を完了したと発表した。原発の立ち入り禁止区域を管理するウクライナ政府機関も、フェイスブックに「チョルノービリ原発の敷地内にはもはや部外者はいない」と投稿した。

 ウクライナ国防省は4月6日、ロシア軍が占拠していたチョルノービリ原子力発電所の近くをドローンで撮影した映像を公開した。1986年の原発事故で汚染され、立ち入りが制限された地域で、露軍が掘ったとされる複数の塹壕や車両が移動した跡が映っていた。周辺に滞在したロシア兵が被ばくした可能性を示している。

 ロシア軍の引き上げたチョルノービリ原子力発電所は、ウクライナ原子力規制当局との直接通信が回復している。IAEAのグロッシ事務局長は4月26日、専門チームを率いて、ロシア軍が一時制圧したウクライナ北部のチョルノービリ原発を訪れた。AFP通信によると、グロッシ氏は現地で現在の放射線レベルは「正常だ」と話した。

 地元での記者会見において、グロッシ氏はロシア軍が占拠したことは「異常な状況で、非常に危険だった」と強調し、放射線レベルが上昇した局面もあったと説明した。また、ロイター通信によると、グロッシ氏はIAEAが損傷したチョルノービリ原発の修復を支援することでウクライナと合意したとも発表した。

 これに先立つ4月24日、NHK取材班が、チョルノービリ原発のあるスラブチッチ市を取材し、一時ロシア軍に拘束された市長のインタビューも行った。その中で市長は、「原発への攻撃は前例のない事態で、36年前に事故を起こした原発を囲っている巨大セルターが破壊されないか非常に心配した」と語っていたのが印象的であった。

関連記事

新着記事

»もっと見る