非常識な発言だが、ロシアはすでに、このような考え方に沿った政策を進めている。ロシアが2014年のウクライナ南部クリミア半島の併合以降、国際社会からの経済制裁に対抗するために進めてきた「輸入代替」政策だ。
ロシアは制裁により、欧米などから一部の技術・製品輸入ができなくなったが、これを機に多様な分野で輸入に依存せず、自国産品で補える態勢を整えようという考え方だ。今回の制裁強化や、外資系企業の撤退により、国内企業が逆に生産を増大したり、シェアを回復できるとの見込みがプーチン氏にはある。
プーチン氏はまた、3月にはロシアが「非友好国」に指定した国の企業の意匠権や発明などを、ロシア企業が利用することを事実上容認する大統領令に署名した。さらにロシアでは、非友好国の企業が事業停止した場合に、その資産をロシア側が接収できる法案の検討が始まったと報じられている。ロシアが海外企業の権利を全く重視していない実態が浮かび上がる。
ただ、このような政策がどこまで効果があるのかは疑問が残る。ロシアは旧ソ連時代から多くの産業分野で西側の国々から立ち遅れ、ソ連崩壊後の経済混乱でその遅れはさらに決定的になった。その後、2000年以降から顕著に増大した資源輸出収入で製品・サービスを輸入することで、人々の生活水準を向上させてきた。
技術やノウハウは模倣できない
今回、ロシア事業の停止・縮小などを決めた多国籍企業は1000社を超え、ロシア国内では多くの輸入品が消えた。プーチン氏が進める輸入代替政策は、原材料が潤沢に国内に存在していたり、生産コストなどを度外視すればある程度は可能だが、技術やノウハウの積み重ねがない状態で、輸入品と同レベルの製品を作ることはできない。国内市場では、独占が可能かもしれないが、企業間の競争が働かない環境で生産された商品・サービスを押し付けられる国民はたまったものではない。
モスクワ市のソビャーニン市長によれば、ルノーが運営していた工場では今後、ソ連時代の大衆車「モスコヴィッチ」が生産される計画だという。西側の先進的な生産技術から断絶され、競争力の低い商品で人々が満足させられてきたソ連時代。ロシアで今起きていることはまさに、ソ連時代への逆戻りに近い現象だ。
国民は品質の不確かな製品を売りつけられ、企業は国際競争力を失う。ウクライナ侵略というプーチン政権の失政を糊塗するための産業政策は、ロシア経済を長期にわたって袋小路に追い込もうとしている。