ウクライナ侵略により欧米諸国から厳しい経済制裁を受けるロシアで、市場から撤退した外資系企業の模倣サービスや商品がはびこりつつある。外資が格安での売却を余儀なくされた事業を受け継ぐケースもあれば、不透明な形でビジネスを〝乗っ取る〟ケースもある。
ロシア政府は欧米企業の商標の不正なコピーを容認し、撤退した外資の資産接収も辞さない構えだが、外資と同じレベルの商品やサービスが提供される保証はない。国内市場を独占しても、ロシア企業の競争力が一層失われるのは必至で、産業が国際的に孤立したソ連時代に逆戻りしつつあるかのようだ。
マクドナルド事業継承の表と裏
「これがハンバーガー。味は以前と変わらない。ポテトも同じだ。ただ包装が変わった。ロゴがない。ソースは、マクドナルドのソースのマークを〝消して〟使っているね」
米マクドナルドのロシア市場からの完全撤退を受け、6月12日にオープンした後継チェーン店の「フクースナ・イ・トーチカ(おいしい。ただそれだけ)」。モスクワのユーチューバーは開店当日に店舗を訪れ、全メニューを購入してその味の違いを「実況中継」してみせた。店内は客であふれ、店舗の再開を喜ぶ声を次々と上げていて、ロシア国内での期待の高さがうかがえた。
新たなチェーンのオーナーとなったロシアの実業家アレクサンドル・ゴボル氏は石炭産業から財を成し、その後ホテルやレストランチェーンに乗り出した人物だ。ロシアメディアのインタビューに答えたゴボル氏は、マクドナルドとの交渉はアラブ首長国連邦(UAE)で極秘裏に行われ、約6万2000人の従業員の雇用を2年維持することや給与支払いなどを条件に、「格安」で事業を買収した事実を明らかにした。
ゴボル氏はこれまで、シベリア地方でマクドナルドのチェーンを運営していた経緯があり、インタビューでは店舗数を現在の850店から1000店に早期に増やす方針も明かし、「われわれは、未来永劫事業を展開していく」とも意気込んで見せた。事業承継には、行政も協力を惜しまなかったといい、外資撤退の象徴的な事例であるマクドナルドの撤退を、〝成功裡〟に進めようとした政権の意図も感じられる。
しかし、一見スムーズに事業が継承されている印象を与えるマクドナルドの撤退も、インタビューから明らかになったのは、同社が従業員らの雇用を守るために、「格安」で事業をロシアに売り渡していたという事実だ。国際的なトップ企業としての、従業員に対する強い責任感が伺える。そもそも、ロシアによるウクライナ侵略という事態に巻き込まれての事業売却であり、マクドナルド側には責任がないにもかかわらずだ。