2023年1月30日(月)

デジタル時代の経営・安全保障学

2022年7月14日

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川口貴久 (かわぐち・たかひさ)

東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員

1985年福岡県生まれ。専門は国際政治・安全保障、リスク管理。慶應義塾大学KGRI客員所員。2010年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了、08年横浜市立大学国際文化学部国際関係学科卒。最近の論考に「経済安全保障を考慮したガバナンス・リスクマネジメント態勢の構築」(東京海上ディーアール)、「2020年アメリカ大統領選挙と中国の影響力行使」(笹川平和財団)など。
 

 第三の経路は、前者二つよりも秘匿性が高く、より多くのリソースが投入されたであろう高度な影響力行使である。

 朝日新聞のサイバーセキュリティ専門記者・須藤龍也によれば、21年の秋、台湾の大手セキュリティ会社「TeamT5」の信用を貶めるような偽情報、日台関係を悪化させるような偽情報が日本語で発信されたことが確認された。

 この影響力工作は活動や発信源を偽装する痕跡があり、(最先端というわけではないにせよ)従来のオンライン上の日本語での影響力行使とは次元が異なるものだ。影響力行使のプロセスや投入されたであろうリソース、推察される目標をふまえると、中国政府機関もしくはその「委託先」の関与が疑われる。

 こうした点からも、日本は中国のオンライン影響力工作とは決して無縁ではない。

今後3年間で議論すべきこと

 仮に国民投票が行われるとしても、外国勢力による影響力行使や介入が、国民投票の結果を覆すかどうかは分からないし、恐らく結果を変えることは難しいだろう。米欧や台湾への選挙介入がそうであるように、外国の影響力工作が有権者の投票行動にどれほど影響を与えたかの立証は難しい。

 しかし、国民投票運動や投票のプロセスに介入や不正の「疑惑」があるだけで、その投票自体の正統性が疑われることは、16年および20年米大統領選挙をみれば明らかだ。

 憲法改正に関する議論は国論を二分するだろう。これ自体は不自然なことではないし、自由闊達に議論を交わすべきだ。けれども、後に外国からの干渉が明らかになった場合、国民投票や民主主義に対する信頼は回復不可能なレベルにまで失墜するだろう。それは単に個別の国民投票の信頼が失われるだけではなく、戦後、日本が歩んできた民主主義への信頼を揺るがしかねない。

 インターネット利活用や広告に関するルール整備は必要だが、自由闊達な意見を前提とする国民投票活動が本当に懸念すべきは、開かれた言論空間を切り裂く権威主義国家の影響力行使だ。

 幸か不幸か日本には、選挙介入対策のベストプラクティスを学ぶ先が多くある。なぜなら、米国、台湾、豪州、欧州各国では既に外国による影響力行使や介入が顕在化し、法整備も含めて対応を講じてきたからだ。

 最も必要なことは、外国からの介入や影響力行使を可能な限りリアルタイムに近い形で検知・分析できる能力、すなわち国民による発信・議論と外国による介入を峻別する能力である。そのためには、外国資本も含めたデジタルプラットフォームに対して従来以上の協力を「要請」することも含まれる。さらにいえば、オフラインでの影響力行使の検知・対応も必要である。

 憲法改正が発議されるにせよ、されないにせよ、今後、議論は加速するだろう。その際、外国勢力の介入対策もワンセットで議論されなければならない。

 
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