2023年1月30日(月)

デジタル時代の経営・安全保障学

2022年7月14日

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川口貴久 (かわぐち・たかひさ)

東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員

1985年福岡県生まれ。専門は国際政治・安全保障、リスク管理。慶應義塾大学KGRI客員所員。2010年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了、08年横浜市立大学国際文化学部国際関係学科卒。最近の論考に「経済安全保障を考慮したガバナンス・リスクマネジメント態勢の構築」(東京海上ディーアール)、「2020年アメリカ大統領選挙と中国の影響力行使」(笹川平和財団)など。
 

 国民投票の周知を担うのは、衆参両院10人ずつで構成される「国民投票広報協議会」である。協議会は憲法改正案の要旨、新旧対照表、改正に対する賛否意見等を記載した「国民投票広報」を全世帯に配布し、同様の内容をテレビ・ラジオ放送・新聞広告で発信する。

 そして国民一人ひとりは「国民投票運動」、つまり「憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為」を行うことができる。この運動は、国民が自由に運動を行い、自由闊達に議論するために、「原則的に自由であり、規制はあくまでも投票が公正に行われるための必要最小限」との理念に基づく。

 つまり、この運動は公職選挙法の規制下になく、われわれがイメージする通常の国政・地方選挙とは異なるということだ。公職選挙法に規制されない活動・運動という点だけでいえば、19年2月に実施された「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票」と同様だ。

 個別訪問や公職選挙法にいう「気勢を張る行為」(団体行進、楽器の使用等)が認められる。もちろん、多数に対する組織的な利益・利害関係を悪用した誘導は罰則対象であるものの、基本的には自由なのだ。

自由故に高まるリスク、問題は外国勢力の介入

 憲法改正に関わる議論や国民投票運動は、根拠と論理に基づくことが望ましいだろう。と同時に、根拠や論理に基づかない、感情や信念に基づく主張も当然に許容されるべきだ。極論すれば、有権者の発言や表現は、不正確な情報や偽情報の類であっても、直ちに規制されるべきものではない。

 こうしたものも含めて、発言や議論を保証することが求められている。これこそが、自由で開かれた民主主義社会の前提だ。少なくとも国民が発信する内容を以って規制するという考え方は、国民投票活動以前にあってはならない。

 しかし同時に、自由で開かれた社会は、それ故に悪意をもった攻撃や情報に脆弱だ。特にソーシャルメディアやデジタルプラットフォームでは、偽情報やディスインフォメーションが流通・拡散しやすい環境にある。そして米国、欧州各国、台湾、豪州の国政選挙・国民投票では、外国勢力による介入や影響力行使が顕在化し、民主主義の根幹を揺るがす問題となった。

 国民が無自覚(もしくは意図的)に生み出すかもしれない情報混乱と外国勢力による干渉は本質的に異なるものであり、両者は区別する必要がある。その上で、少なくとも後者は徹底した対策を講じる必要がある。

 こうした考え方は、筆者が関わった笹川平和財団の提言書『外国からのディスインフォメーションに備えを!』(22年)や『ハックされる民主主義』(土屋大洋との共編著、千倉書房、22年)でも議論され、結果的に多くの専門家やメディア関係者の合意を得られたと考える。

 では、日本の選挙や投票に対して、外国勢力が介入するリスクはどの程度あるのか。

 そもそも、「日本の選挙は既に外国政府に干渉されているのではないか」との疑問も浮かぶだろう。 慎重に答えるならば、アクセス可能な公開情報に基づけば、外国政府が日本の選挙に対して、デジタル空間を通じて組織的に干渉した事実は確認できていない。もちろん単に公開されていないだけという可能性もあるし、そもそも日本政府や当局にそのような介入を検知する能力がない可能性もある。

 しかし、これまで介入を確認していないということは、将来にわたって介入がないということにはらない。


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