4月1日。相談の電話を受けて間もない支援先を訪問するというので同行させてもらった。ある部品メーカーA社の事務所である。
「借入の1本ごとに詳しく教えてもらえますか?」。各金融機関が発行している返済予定表を見ながら、借入残高、月々の返済額、担保・保証の内訳、条件変更(リスケジュール)の有無を確認していく。条件変更とは、元本の返済を一旦猶予あるいは減額してもらうこと。亀井静香金融相(当時)の肝いりで09年末に施行された金融円滑化法で、金融機関は条件変更の申し出にできる限り対応すべし、とされた。ただし、リスケになると、新規の借入はほとんどできなくなる。
A社は売上が落ち込み、借入が過大になっている。昨年2月、取引があったNEC埼玉(携帯電話の生産子会社)が事業縮小を発表。信用金庫にリスケをしてもらったが、再び資金繰りが厳しくなっている。3月末、NECが携帯事業からの撤退を検討と各紙が報道。社長は困り果て、活性化センターを訪れた。
「いくつか新しい注文が来ているが、先に原材料費がかかってしまうのでおいそれと受けられない。売上の見込める新商品もやっと開発できたが、その営業活動やお客さんごとのカスタマイズにも費用がかかる。あと1000万円ほど軍資金を融資してもらえればなんとかなるんだが……」
そう語る社長に中嶋さんは「リスケを受けている会社が簡単に融資を受けられると思ったらいけませんよ」と厳しい。「原価率が高いから下げる努力をしてください。注文が来そうなら相手から発注書をもらってください。ダメなら請書でもいい。新商品については計画書を作ってください」。
社長はいまひとつ乗り気ではない。中嶋さんは言葉を続けた。「金融機関はみんな本部の稟議を通らなければ貸してくれません。『リスケしてる企業になぜ貸せるんだ?』。そういう反論に応えられるだけの根拠を担当者に渡してあげないと。一緒に金融機関の交渉にも行きますから。給料を我慢してもいいと社員は言ってくれてるんでしょ? そんな社員いませんよ。社長がこれまで頑張ってきたからみんな支えてくれてるんです。社長、大丈夫。頑張りましょう」。その後、経理を担当する奥さんに見やすい資金繰り表の作り方を教えた。
孤独な経営者の相談に 耳を傾ける
「最近は、職人が少なくなってねぇ……」。金フレーム眼鏡の製造を手がける川上眼鏡製作所の川上勉社長。1932年生まれだ。独学で眼鏡製作技術を身に付け、77年に会社を設立。販売価格にして50~100万円もする金フレーム高級眼鏡を生産している。
高級デパートに出荷しており、海外からも注文がある。こんな時代にもかかわらず人気なのだ。だが、悩みは生産が追いつかないこと。高齢の職人が退職し、未経験者を3人採用したが、いずれも成長途上。技術を持つ外注先も減った。事業承継の問題もある。