4月13日、宮城県気仙沼市を訪れた。この地には、私が以前、理事長を務めていた仙北信用組合(本店・宮城県栗原市)の融資先が数多くある。被害の甚大さには声も出ない。気仙沼港の魚市場や水産加工会社の多くが流されてしまっている。
斉吉商店を営む斉藤和枝専務に会う。気仙沼随一の廻船問屋から水産加工業へ転身して、60年あまりの歴史を持つ老舗だ。とくに「金のさんま」と名づけたさんまの佃煮は、首都圏の百貨店でも売られるほど人気があったが、工場が津波によって流されたと聞いていた。気になっていたのは、「金のさんま」に使われる秘伝のタレのことだ。斉藤さんに会うなりそのことを尋ねた。
「タレを載せたトラックが津波にのまれてしまいました。幸い運転していた従業員は逃げ出すことができたのですが、タレのことは諦めていました。でも、従業員たちは諦めずに流されたトラックを探してくれたんです。3日後トラックが見つかり、冷凍保存していたタレは無事でした。ここまで頑張ってくれた従業員のためにも、一刻もはやく工場を再建したい」と、力強く話してくれた。
融資では救えない
しかし、このように再起に賭けようという気持ちになれる経営者は決して多くない。私のもとには、震災以来、中小企業の経営者から今後の相談の電話が毎日何件も入る。電話の向こうの声は希望を失くし、立ち上がる勇気すらも失くしている。励ます。目の前にあることを、今やらなければならないことをやるように、まずは工場や店舗、事務所の片づけ、そして事業の再開、そうすれば必ず光は見えてくると。
とはいえ、経営者の目の前には次々と壁が立ちはだかる。集金ができない。売上は事業再開まで見込めない。社員の給与は、仕入代金の決済は、手形は、銀行の返済は……。先の見えない不安が経営者を襲う。家族や従業員が行方不明という企業もある。東京の政府関係につながりのある人たちに電話やメールを入れ、被災地の中小企業の現状を訴える。3月末の決済ができない。緊急融資の制度を確立してほしいと。
あの日からもう2カ月が過ぎた。信用保証協会や政府系金融機関が復旧、復興のための融資制度を設けた。リーマンショックでの借入がまだ返済できていない企業にとって、新たな借入は将来の経営に重くのしかかる。今は凌(しの)げて復旧しても、復興するまで、売上が回復するまでには相当の時間が必要となる。本業で利益が出ても、支払利息の分で赤字になる。据え置き期間が終わり、返済が始まればキャッシュフローが不足する。ましてや、数年後になんらかの要因で不景気になれば、新たな借入は難しく、金融機関の支援も受けられなくなるだろう。
この大震災は今までの災害対策や景気回復策では追いつかない。もっと大胆に新しいモデルを作らなければ、倒産のドミノ倒しを防げない。
今必要なのは融資ではなく投資だ。中小零細企業向けのファンドを創設することを政府にお願いしたい。借入でなく、資本として中小企業が資金を得ることができれば、経営者は返済に追われることなく経営に専念できる。中小企業の持つ粘りとアイデアを発揮できるようになる。ファンドを入れた企業は、利益が出たら配当を出し、さらに毎年少しずつ自社株を買い戻せばよい。あるいは、経営者や社員が給料から少しずつ買い戻す手もある。資本増強となることにより、金融機関も長期にわたって支援しやすくなる。