2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2011年5月20日

 歴史的に、日本の中小零細企業金融に資本という概念がなかった。みな借入を元手に商売をしてきた。売上から利息を払い、元本を少しずつ返す。事業拡張のためにまた借入をする。順調なときは自らに給料を支払う。多くは赤字経営で内部留保することはない。借入はゼロにならず根雪のように横たわる。経営者からすれば、株主への配当は有税だが、利息なら税引き前の費用にできる。金融機関は大きく減らない元本から返済を受け続けることができる。両者にとって好都合だった。

今こそ中小企業に「資本」の概念を

 しかし長期間にわたる不況で、このシステムを維持するのは難しくなっていた。2000年前後の早期是正措置以降、こういった長期運転資金の融資に対する金融庁の検査が厳しくなった。リーマンショック後、緊急保証や、金融円滑化法による返済猶予が制度化され、中小零細企業の資金繰りは緩和されたが、いつまでも続けられるわけではない。

 中小零細企業は、すでに既存債務に信用保証や、利子補給、繰り延べを受けている。その上震災で設備や財産を毀損した。さらに融資を実行しても経営者にとっては二重、三重ローンで返済に追われるばかりだ。

 だからこそ国主導で中小零細企業ファンドを創設してほしい。預金者の保護という目的を持つ個別の金融機関は主体になりえない。では具体的には誰が担うのか。地域金融に詳しい坂本忠弘氏(地域共創ネットワーク代表)は次のようなアイデアを提供してくれた。(1)信用組合の全国組織である全国信用協同組合連合会がまず対応する。(2)日本政策金融公庫や商工組合中央金庫にも運営主体として支援を求める。(3)中小企業基盤整備機構等も含めた公的な資金支援を得る。

 企業の目利きや、長期にわたる本業支援など、ファンドの手足となる人材は、地場の信用組合の既存人材を活用すればいい。資金も人材も既存のリソースを最大限に活用し、いわばオールジャパンで中小零細企業ファンドを運営していくのだ。

 すでに民間でファンドを創る動きがある。冒頭の斉吉商店など、三陸沿岸で展開する6事業者は、NPO法人ファイブブリッジの竹井智宏氏らやミュージックセキュリティーズ株式会社と連携して「セキュリテ被災地応援ファンド」を立ち上げた。日本全国の個人から応援金(寄付)と出資金を組み合わせて資金を募り、復興に向けた直接的な事業費に充てる仕組みだ。4月25日に募集が始まったが、続々と資金が集まっているようだ。こういった民間の知恵とも積極的に連携していけばいい。

 最後に信用金庫や信用組合の役割について述べておきたい。これらは地域の商店主や工場主が寄り集まって作った協同組合である。「晴れた日には傘を貸し、雨が降ったら取り上げる」銀行とは異なる金融機関を、という願いから生まれ、地域で資金を循環させる使命を持つ。

 岩手、宮城、福島の信用金庫、信用組合は、自店舗に加え、既存の貸出債権にも相当のダメージを受けた。収益源である貸出先企業も被災し、どのくらい組合員が減るかさえ予想できない。政府は公的資金の導入を促しているが、信用金庫や信用組合には公的資金ではなく返済の必要のない助成金を出すべきではないか。農業や漁業といった他種の協同組合には助成金のシステムが数多くある。地域の中小零細企業の支援活動費への助成と考えれば筋も通る。


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