相談相手がいない中小企業経営者にとって、話を聞いてもらうだけで問題の半分は解決したようなものと、ある経営者が話していたが、中嶋さんがその役割を果たしていた。
アサヒボンド工業。大手の寡占状態にあるボンド業界で、壁面補修材など有力なニッチ商品をいくつも持つ優良中堅企業だ。しかし、このところ価格競争が激化。政府は震災復興や公共事業に力をいれているが、「まだ恩恵は感じられない」と言う。
児玉一真社長は05年、父親の急死で社長に緊急登板することとなった。「親父には、これから教わろうと思っていた矢先でしたから、何の準備もできていませんでした。社員と社長ではプレッシャーが全く違う。今でも考え込むと朝まで眠れないなんてことがよくあります」。そんな児玉さんに「よくやってるよ」と声をかける。
和田加工所の和田浩一社長は、08年にリーマンショックの影響で会社が窮地に陥った。緊急融資が必要になったが、税金の滞納があったため、信用保証協会への書類審査が通らない。
一般的に、バブル崩壊以降の不良債権問題を受け、信用金庫も含め金融機関が単独融資(プロパー融資)を行うケースは少なくなった。不況のたびに、信用保証協会による保証制度が拡充されたため、担保があるか保証が付くかしなければ、融資しないという態度が目立っている。保証があれば貸し倒れになっても保証協会が代位弁済してくれる。「なぜ、金融機関はリスクをとらないのか?」と中嶋さんは憤る。
和田さんは、09年初め、できてすぐの経営改善支援チームに駆け込んだ。「中小企業が税金納付を後回しにするのはよくあること。日常の資金繰りを優先させてしまう」。
和田さんには兄弟がいた。しかし、身内とはいえ突然借金のお願いなどなかなかできるものではない。そこで、中嶋さんも一緒に兄弟と面談し、融通してもらうことができた。税金の滞納を処理したため、保証協会が動ける状態になり、融資が実行された。いまではリスケも脱却している。「1人で悩んでいたときは行き詰まって辛かった」と振り返る和田さんは、年に1度は中嶋さんに会って旧交を温めている。