米国通商代表部(USTR)がメキシコのエネルギー政策を米墨加協定違反であるとして紛争解決手続きを開始する旨発表した背景等について、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙のワシントン特派員Yuka HayashiとメキシコシティのJuan Montes特派員が7月20日付の同紙で解説している。
7月20日、USTRは、メキシコ政府が米墨加協定に違反して国営電力会社(CFE)と国営石油会社(PEMEX)をさまざまな形で優遇しているとして、同協定の紛争解決手続きに基づきメキシコ政府に協議を要請した旨発表した。
具体的には、昨年の電力産業法の改正により価格等に関わらずCFEが生産する電力を民間企業が風力や太陽光発電で生産する電力よりも優先して配電すること、エネルギー産業の分野で行われる様々な米国企業の事業についてメキシコ政府が許認可手続きにおいて遅延、拒否、取消しによって妨害すること等が問題とされている。化石燃料による発電をクリーンエネルギーよりも優先することは気候変動対策にも逆行する措置である。
エネルギー産業の国家支配をいわば国家主権の柱として位置付けている左派民族主義者のロペス・オブラドール大統領にとって、前任のペニャ・ニエト政権が石油産業立て直しのために民間投資に石油分野を開放した憲法改正を廃止することが最重要課題であった。しかし、両院での3分の2の賛成は得られず、ロペス・オブラドールは、過半数の賛成により成立する法律の改正と最高裁への自らの息のかかった判事の送り込みにより、憲法改正によらずに同様の効果を実現した。
しかし、そのような法律や運用は、米墨加協定に違反するものであり、米国が漸く同協定の紛争解決手続きに訴えて立ちはだかったわけである。協議が整わなければ専門家パネルの決定が出るまでに1年以上はかかり、仮にこれが協定違反であるとの裁定が出ても、おそらくメキシコ側は態度を変えず米墨間の貿易摩擦が長期的に継続することが予想される。
また、電力産業法の改正は最高裁で違憲判断は出されなかったが、合憲と認めたわけでもなく、地方裁判所レベルでは、同改正や他の法律や措置について違憲差し止めの提訴が数多く出されている。更に国際仲裁に付されるケースも出てきているようである。