2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年6月24日

 5月31日、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)は、4月に合意していた自由貿易協定(FTA)に調印した。調印式はドバイで行われた。イスラエルにとり初のアラブ国家とのFTAとなる。

Oleksii Liskonih / iStock / Getty Images Plus

 イスラエル政府の声明によれば、このFTAにより、両国の間で取引される物品の96%について5年以内に関税が撤廃される。対象には、食品、農産物、化粧品、医療機器、医療品等が含まれる。2021年の両国間の貿易額は8億8500万ドルだったが、FTAにより5年以内に100億ドルになるという。

 地球温暖化防止のため世界的規模で脱炭素が進み、UAEの経済的繫栄の源となっている化石燃料への需要が低下することは確実だ。こうした流れの中で、UAEは新たな経済戦略を描くべく、中東や南アジアとの経済的連携強化を進めている。

 イスラエルのハイテク技術はUAEにとり魅力が大きいだろう。イスラエルのハイテク産業にとっては、ドバイの潤沢な資金が魅力的だろう。UAE・イスラエル・ビジネス・カウンシルによれば、南アジア・中東・極東を目指すイスラエル企業にとり、ドバイはハブになっている。

 しかし、今回のFTAは、こうした経済的意味以上に、政治的意味合いが強いように思われる。FTAは、2020年のアブラハム合意(イスラエルとUAE、バーレーンの国交樹立)に端を発する、イスラエルと湾岸のアラブ国家との政治的関係強化の流れに位置づけることができるだろう。パレスチナ問題の解決を前提としない関係改善は、イスラエルにとり、大きなメリットとなる。

 背景にあるのは、イランという共通の脅威である。イランによる核開発、弾道ミサイル開発、代理者による地域紛争や内戦への介入などは、イスラエルと湾岸のアラブ諸国双方にとり脅威となっている。UAEなど一部の湾岸のアラブ国家は、イランの脅威を前にして、パレスチナ問題という「アラブの大義」を棚上げしたと言える。


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