ロペス・オブラドールが、エネルギー産業の国家による独占を意図しているのであれば、これは米国のエネルギー製品や米国エネルギー投資への依存からの脱却を意味するものでもある。もともと同人は、農業分野をNAFTAの対象としていることに反対を唱えていたこともあり、究極的には、メキシコの米国への経済依存からの脱却、更には政治的に距離を置くことも望んでいるようである。
メキシコ経済悪化の懸念
メキシコ経済は低迷を続け、治安状況も特段改善されていないにもかかわらず、ロペス・オブラドールの支持率はこの3月にもっとも下がっても58%であり、問題の責任を全て前の政権に転嫁し多国籍企業を敵視する同人のレトリックや、最低賃金の引き上げ、貧困層や若者層への経済支援により、政権に対する国民の支持率は依然として高い。
また、このような投資環境の悪化にもかかわらず、メキシコを製造拠点として米国市場に輸出するビジネスモデルは、他の選択に対して依然として比較優位を保っている。しかし強引なエネルギー政策の転換は、投資環境の予測可能性を損ない、メキシコ経済にとっての多くの利益や機会が失われているように思える。
米国にとっては、南部国境の移民問題や麻薬対策もあり、ことさら対墨関係を悪化させる必要はなく、バイデン政権も表面上は、貿易紛争と二国間関係全般は切り離して是々非々で対応するのであろう。
ロペス・オブラドールの任期は後2年半で再選は禁止されている。従って、その任期中は、政権と民間企業、米国との間で裁判や紛争解決手続きを通じて、また、議会では新たな立法措置を巡っての押し問答が続くのであろうが、メキシコの投資環境についての信頼が揺らぐことは残念であり、また問題は、その後継者が同様の路線を引き継ぐのか否かであろう。