再び「トランプ」対「FBI」
FBIによるトランプ邸家宅捜索により、再び「トランプ」対「FBI」の対立構図が先鋭化している。20年米大統領選挙におけるトランプ陣営とロシアとの共謀を巡る「ロシア疑惑」では、FBIはトランプ氏を刑事訴追できず、敗北した。今回、FBIは面子をかけてトランプ前大統領と戦うだろう。
これに対して、トランプ氏は以下の対策を講じている。
第1に、FBIの押収品は「すべて機密指定を解除したものである」と主張している。この点に関しては、実際にトランプ氏が大統領在任中に大統領令によって指定解除をしたのか、事実を判明することは難しくない。米ABC ニュースによると、指定解除した証拠はない(日本時間8月15日午前7時時点)。
第2に、トランプ氏の関連企業を巡る民事の詐欺案件、FBIによる家宅捜索および、21年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件に関する下院特別調査委員会による公開公聴会の3件を、「政治的動機」としてレッテル貼りをしている。バイデン氏と民主党が政敵であるトランプ氏を倒す目的で、司法を武器化したというのだ。
確かにこの議論には一定の説得力があるが、反論もできる。まず、中間選挙の投開票日の約100日前にFBIが家宅捜索を実施した理由は、トランプ氏が速やかにすべての公文書を提出せずに、捜査妨害をした公算が大きいからだ。つまり、同氏の責任である。
次に、バイデン大統領は20年米大統領選挙において、司法省は独立機関であり、同省の業務に介入並びに関与しないと約束した。この選挙公約を守っており、FBIから家宅捜索について事前に説明を受けていなかった。
バイデン氏は、司法省の業務に介入して圧力をかけたトランプ前大統領とは正反対の立場をとっている。民主主義を尊重する同氏は、中国の習近平国家主席、ウラジーミル・プーチン露大統領やトランプ氏のような強権的指導者に決して見られたくないからだ。
「暴力」と「アンフェア」
第3に、トランプ支持者の間にFBI捜査員や司法省職員を標的にした暴力に訴える動きがあるが止めようとしない。米連邦議会議事堂襲撃事件において、トランプ支持者が武装していたのを認識していたのにもかかわらず、彼らを議会に向かうように促した行為と類似点がある。
すでに中西部オハイオ州シンシナティでは、武装したトランプ支持者がFBI支局に侵入を試みて、射殺される事件が発生した。
また、捜査令状を許可した南部フロリダ州の連邦判事も、トランプ支持者の標的になっている。そこで、裁判所はこの判事の名前をウェブサイトから削除したという。
第4に、16年米大統領選挙で民主党大統領候補であったヒラリー・クリントン元国務長官が私的なメールサーバーを使って機密情報を扱った「メール問題」において、同元国務長官は刑事訴追されなかったと主張するだろう。トランプ氏は自分に対するFBIの扱いが「アンフェア(不公平)」であると言い立てる可能性がある。
「ヘイトヒラリー(ヒラリー憎悪)」が強いトランプ支持者に対して効果的なメッセージになるからだ。
今後の展開
トランプ氏はFBIによる家宅捜索を利用して、支持者を怒らせ、中間選挙および大統領選挙で自身に有利に運ぶ選挙戦略を展開している。しかし、支持者固めには成功しても、無党派層の票は取り込めていない。
共和党下院トップのケビン・マッカシー院内総務は、秋の中間選挙で同党が多数派を奪還すれば、司法省とFBIを厳しく追及すると約束した。マッカーシー院内総務は特別調査委員会を設置して、公開公聴会を開催し、「共和党下院」対「司法省・FBI」の対立構図を先鋭化させていくものと予想される。この際、超党派の調査委員会を設立できるのかに注目したい。
今後、トランプ氏のみならず、公文書を選択して、ホワイトハウスからの持ち出しを手助けした人物にも焦点が当たるだろう。トランプファミリーのメンバーか、それとも側近か。いずれにしても、この人物も刑事責任が問われることになるかもしれない。