冬を過ごすための準備も進む
真夏の現在は、天然ガス不足の影響を直接、感じることは少ない。だが、EU各国がもっとも危惧している点は、今冬をどのように過ごすのか、ということだ。
かつては温暖だった南欧でも、ここ数年、異常気象による大雪の被害に見舞われる。しかし、スペインやポルトガルの場合、天然ガスの主要供給源がロシア以外であることから、ガス代の高騰を除けば、そこまでの心配はなさそうだ。
厳冬が一般的なスウェーデンやフィンランドでは、ロシア産天然ガスの依存度は高いが、持続可能エネルギーの対策を長年進めてきたため、代替案の準備が整っている。問題は、経済大国ドイツのようなロシア依存に頼ってきた国々だ。
EUのフォンデアライエン委員長は7月、アゼルバイジャンから天然ガス40億立方メートルの追加供給を受けることで合意。ドイツのショルツ首相は、8月11日の記者会見で、ポルトガルとスペインを経由する天然ガスの供給を検討していることを明かした。
米シンクタンク「ジャーマン・マーシャル財団」の経済貿易アナリスト、ジェイコブ・キルケゴール氏は、「ロシア以外の国々からの供給ではもたない」と国際ニュース局「フランス24」に指摘。「(他国からの)追加供給があっても、オペレーションには時間がかかる。2023年から24年の冬には間に合うだろうが、今冬からの利用は難しい」と分析した。
現在、EUはロシア産天然ガスの供給を一時的に断念せざるを得ない中、石炭や原発の再利用を検討している。ドイツやオランダは、クリーンエネルギーへの切り替えに向け、石炭や原発の使用を停止してきた。だが、伝統的な資源の再利用を余儀なくされている。
戦略国際問題研究所のベン・ケーヒル氏は、「ヨーロッパが石炭を燃やすことは、残念な結果だ」と落胆。「誰も望んでいなかったが、電気を流し続けたいのであれば、(石炭は)避けて通ることはできない」と同局に答えている。
こうしたロシア依存の脱却により、各国政府や市民は正念場を迎えている。バルセロナ市内のバルの店主、サルバドル・フィゲラスさん(45歳)は、ウクライナ情勢に同情する気持ちもある一方で、物価高による個人的な影響を考えると複雑だという。「しばらく戦争は終わらないでしょう。今は、耐えるしかない」と声を落とした。
EUでは、異常気象と天然ガス不足の二重攻撃により、史上稀に見る危機を迎えている。それでも各国の市民は今、「意識改革」への挑戦を始めている。