2024年12月3日(火)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年8月30日

 新型コロナウイルス感染者の全数把握がコロナ患者受け入れ病院や保健所機能に大きな負担を与え、正常な業務の妨げになっているとして、8月23日に、全国知事会が国に対して見直しを求めた。知事会長の平井伸治鳥取県知事は「全数把握は、ダムが決壊しているのに、命がけで水位を測れと言っているようなもの。検討はもうたくさんだ。実行に移っていただきたい」と述べた。

コロナ感染者を「全数把握」すべきか、各都道府県知事の対応が揺れている(Abaca/アフロ)

 これを受けて岸田文雄首相が24日、「発熱外来や保健所業務が相当に逼迫した地域では、緊急避難措置として、自治体の判断で患者届け出の範囲を、高齢者や重症リスクがある人などに限定することを可能とする」と述べ、全数把握の見直しを表明した。

 ところが見直しの判断を任されたとたんに知事の態度が変わった。29日現在、全数把握を見直すと発表した知事は4人しかいなかったのだ。

 26日の毎日新聞によれば、あれだけ強く見直しを要望しながら、態度を変えた理由は、「(全数把握は)患者の健康状態を把握するという一番重要なポイントで、必要な医療につなげていく機能を持っている」、「(見直しは)感染拡大を招く恐れがある」、「全数把握することで保健所が陽性者に自主療養などを要請してきた。なくなると、コントロールが利かなくなり、感染拡大を招きかねない」などだったという。

 しかし、これらは全く理由にならない。全数把握を見直したらそんなことが起こることは十分に分かっていたことであり、それを承知の上で知事会は国に見直しを要請したのではなかったのか? 知事の本音をうかがうことができる発言もあった。

 ある知事は「全国知事会の要望は全国一律(の見直し)が大前提だった」と述べ、判断を知事に委ねるのは適切ではないとして、国に全国一律の基準と効率的な手法を要望する知事もいたのだ。要するに、見直しにより何か不都合があったときに知事は責任をとりたくない。だから国の責任で一律に見直してほしいということではないだろうか。感染状況は地方ごとに大きく異なり、だから対策は異なって当然だ。地方自治の看板はどこに行ったのだろうか。

 コロナ対策について国の判断を待つ知事の姿勢はこれに始まったことではないのだが、今回、多くの知事が態度を変えたことは、「ダムが決壊しているけれど、命がけで水位を測ります」と言っているに等しく、これには驚いた。さらに知事のそんな体質を十分に承知しているはずの岸田首相が、あえて知事の判断に任せた理由がよく分からない。


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