2022年12月7日(水)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年8月30日

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唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

検査で感染防止は可能なのか?

 コロナが発生した直後、日本はPCR検査数が少なすぎるという大きな批判が起こり、国会までも巻き込んだ議論が行われた。PCR検査で感染者を全員発見することで感染を減らすことができるという主張だ。

 理論的にはその通りだが、これを実現するためには国民全員の検査が必要である。しかも2、3カ月に1回の検査が必要などという実現不可能な議論までが繰り返された。それでは日本の検査で感染者をどの程度減らすことができるのだろうか。

 この問題について、数理モデルを使った解析が発表されている 。英国での4万人のデータを使った結果では、人口の5%を毎週検査すると、感染を2%減らせるという。

 東京都では毎週人口の1%を検査していることは述べたが、これに英国の例を当てはめると、東京都の検査で都民の感染を0.4%減らすことができることになる。要するに日本程度の検査数では感染者を減らす効果などは期待できないのだ。

 そのような理由で欧米各国では日本のような検査待望論はない。例えば米国疾病対策センター(CDC)は8月11日にコロナ対策のガイダンスを大幅に簡素化したのだが、そこでは無症状の人の検査は推奨していない 。

 私たちは見えないものに不安を抱き、何とか見えるようにしたいと願って検査に飛びつく。牛海綿状脳症(BSE)問題のときには全頭検査、福島第一原発事故の後には福島産米の全量検査と全国の牛肉の全量検査、中国産冷凍餃子中毒事件の後には中国産食品の全品検査要求まで出された。

 コロナについても感染の不安を解消するために検査を望む人がいることは理解できるが、それは個人のレベルに留めて、国のコロナ対策としての検査はリスクが高い人に限定すべきである。

 
唐木英明氏らが日本のコロナ対策が転換の時であると指摘した「政府、分科会、首長よ コロナ対応の転換から逃げるな」はWedge Online Premiumにてご購入することができます。

  
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