自宅で腕を骨折するにはどうしたらいいか――。このような検索がロシア国内で急増した事実も報じられた。プーチン氏が演説で動員を表明した直後に、グーグルの検索数で突然上位に入った。招集を逃れるために、自ら骨折する方法を探した人が急増した実態が浮かび上がる。
軍務経験ない人々も続々と招集
プーチン大統領は今回の動員は「部分的」なものであるとし、招集の対象は軍務経験のある予備役に限られるとしていた。ショイグ国防相によれば、動員対象は30万人規模であり、政権は一般国民が対象となる「総動員」ではないとの立場だ。
しかし、そのような説明は額面通りに受け取ることはできないのが実情だ。
「出発は今日の午後3時だと言われた」
テレグラム上で配信された、モスクワ市内とみられる映像に映る男性は、茫然とした表情でそう語った。
男性は32歳のIT技術者という。彼は「軍務経験もなければ、軍事上の特別な知識もない。軍事学校を卒業したわけでもない」と述べて、〝軍務経験がある予備役〟が対象であるはずの招集が、自分に行われた事実に唖然としていた。
さらに男性は、モスクワ市内の軍の関連施設に赴くと、その日の午後3時に訓練施設に出発することになっていたことを知ったという。「行かなければ、投獄される。行くしかない」と男性は力なく語った。
ずさんな招集活動は各地で行われた。西部サンクトペテルブルクでは、すでに死亡した人に招集が行われた事例があった。警察官が令状を届けようとしたところ、2013年に死亡した人物だったという。
高齢者や学生、糖尿病患者などにも令状が送られた実態も報じられている。割り当てられたであろう人員をかき集めようと、各地の軍当局がなりふり構わず招集を行っている実態がうかがえる。
あからさまな抑圧と逃げる人々
招集はまた、反体制派への抑圧の手段としても利用されているもようだ。
露人権監視団体「OVDインフォ」の担当者は米メディアに対し、今回の動員に反対するデモに参加して当局に拘束された人々に対し、拘留施設内で直接招集令状が手渡された事例が少なくとも4件あったという。デモ参加者への〝見せしめ〟ともいえる動きだ。
さらにロシアが14年に併合したウクライナ南部クリミア半島では、ロシアの統治に批判的な先住民族が数多く招集されているとの指摘もある。
クリミアの中心都市、シンフェロポリでは、クリミア・タタールと呼ばれる民族の男性が多数、ロシア軍の入隊事務所前に列を作っている動画が撮影された。実態は不明だが、ウクライナ政府はクリミア・タタール人ら1000人以上に、召集令状が送られていると指摘した。
2月のウクライナ侵攻開始以降、ロシアからは若年層を中心にすでに多くの人々が自国を去った。ただ、それらは主に経済的に余裕がある人々で、他の多くの人々は出国を望んでも、資金がないか、家庭の状況などからロシアにとどまらざるを得ないのが実情だった。
しかし今回の動員開始は、どのような無理をしてでもロシアを去ろうとする人々の動きを後押ししている。