筆者が試算したロシアの国内総生産(GDP)における非友好国(対露制裁に参加している国)向け石油輸出が占める割合は6%、天然ガスは1%で、計7%にのぼる。EU等によるロシア産エネルギー資源への依存からの脱却によって、この7%の大半が消失することになる。その一部は、対露制裁に同調しない中国やインドへの輸出先転換によって補われることになるが、その場合でもディスカウント(買い叩き)に遭うことは避けられない。
財政は持ちこたえるも
ロシアの国家財政は、今のところ持ちこたえている。歳入面では、石油ガス価格の高騰により「石油ガス収入」が安定的に推移していること、歳出面では、いわゆる戦費と目される「国防・安全保障・総務支出」がそれほど急拡大していないことが財政の安定に寄与している。
7月には、約1兆ルーブルと本年に入り単月では最大の財政赤字となったが、1~7月期で見ると、4820億ルーブル(21年GDP比で0.4%に相当)の財政黒字だ。少なくとも、22年については財政が赤字になるとしても小幅赤字で、大きく崩れる可能性は低い。
また、たとえ財政赤字になったとしても、これまでの財政黒字を積み立てた国民福祉基金の残高が22年6月末時点で10.8兆ルーブル(うち流動資産部分は7.4兆ルーブル)あり、これを取り崩すことで、国債を発行せずとも財政赤字を補填することが十分可能な状態だ。
しかし、2~3年後もロシアの国家財政が盤石かと問われると、必ずしもそうとは言えない。前述の通り、西側諸国がロシア産エネルギー資源の輸入削減を進めていることから、ロシアの石油・ガスの生産・輸出量は減少に向かうと見込まれるが、これは石油ガス収入の減少要因となる。こうした中で、今後、戦費が拡大されたり、国民の不満を緩和するために大規模な財政支出が行われたりすると、財政赤字は急拡大し、その分、国民福祉基金が底をつく時期も早まることになる。
我慢強い国民性と「制裁慣れ」
ロシア国内の小売売上高については、ウクライナ侵攻の翌々月の4月から減少が鮮明となった。4月には、前年比9.8%減少、5月は同10.1%減となり、直近の7月まで前年比約1割減の推移を続けている。
小売売上高の減少の主因となっているのは、実質賃金の減少だ。3月にルーブルが対米ドルで前月から25%下落し、インフレ率が2月の9.2%から16.7%へ急上昇したことにより、実質賃金は4月に前年比7.2%減、5月も同6.1%減と前年割れを続けている。