2022年10月3日(月)

経済の常識 VS 政策の非常識

2022年8月13日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 戦争が終わらなければウクライナの戦後の経済発展はない。プーチン大統領の「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」という論文を字義通りに解釈すれば、ロシアが戦争をしたのは、ウクライナとロシアは一体でなければならないからだ。しかし、ウクライナはロシアと一体になりたいなどと少しも思っていない。

(Michele Ursi/gettyimages)

 ヘンな思想に凝り固まって暴力的なロシアなんかとはさっさと分かれて、自由になりたいと思っているだけだ。ソ連崩壊前、自分たちと同様に貧しかった東欧諸国は豊かになった。2021年、ポーランド、ハンガリー、ルーマニアの一人当たり実質購買力平価国内総生産(GDP)は3万ドルを超えている。ウクライナは1.3万ドルにすぎない(国際通貨基金(IMF)、 World Economic Outlook Database、17年国際ドル。参考までに日本は4.1万ドル、米国は6.3万ドル)。

民主主義と腐敗と経済発展

 ウクライナがこれまで発展できなかったのは、ロシアを向くか欧米を向くか、国策が定まらなかったからではなく、腐敗が酷いからだという説もある。確かに、ウクライナの腐敗は酷い。

 ウクライナは、民主主義指数で世界167カ国中の86位、腐敗認識指数で世界188カ国中の122位、後述する東欧、ヨーロッパの旧ソ連構成国の中で、それぞれ下から5位と2位である。民主主義の程度が高ければ、報道の自由と野党の活動によって、通常は、腐敗はかなり抑えられる。

 民主主義と腐敗と経済発展の関係を考えるが、その前に、ここで用いる民主主義指数、腐敗認識指数の説明をしておく。民主主義指数は、エコノミスト誌の傘下のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットが、各国の政治の民主主義のレベルを5つの部門――選挙過程と多元性、政府機能、政治参加、政治文化、人権擁護――で評価し、かつ統合した民主主義の指数を作っている。数が大きいのが、民主主義の評価が高い。

 トランスペアレンシー・インターナショナルは、世界各地の公務員と政治家が、どの程度汚職していると認識できるかという指数を作っている。この腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)は、毎年ほぼ10の機関が調査したアンケート調査から作成している。10の機関とは、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行、ベルテルスマン基金、世界銀行、エコノミストインテリジェンスユニットなどである。

 調査対象は、世界中のビジネスマンと政府の分析専門家などである。調査対象に「一般市民」ではなく、ビジネスマンや専門家を選んでいるのは、彼らが、いわゆる小口の汚職・腐敗よりも、政治資金、談合など大口の腐敗を、より熟知しているからである。数が大きいほど腐敗が少ない。

 両指数とも北欧の国々とニュージーランドが最上位層を占めている。腐敗指数については、シンガポールが世界4位の評価を得ている。ちなみに、日本は民主主義で17位、腐敗で18位である。

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