小売売上高、実質賃金とも前年割れを続けているものの、6月頃から、わずかながら持ち直しの動きがみられることにも注意が必要だ。こうした持ち直しの背景には、ロシアの企業や国民が、制裁を課された状態に適応してきているということがある。
その端的な例がウクライナ侵攻により撤退した米国のハンバーガーチェーン大手のマクドナルドやコーヒーチェーンのスターバックスの後継店の開店だ。ともに、ロゴや商品、サービスが酷似したものを提供している。
このほか、制裁により半導体をはじめとする高度技術品の輸入が規制されるなかで、そうした部品なしで製品を製造・販売する動きも広がっている。自動車のエアバッグやABS(アンチロック・ブレーキシステム)の製造が困難になるなかで、これらの装置を装備していない自動車を製造し、新車として販売する形だ。
世界的な信頼を失ったロシア経済の行方は
ウクライナ戦争下でのロシア経済は、歪を明らかにしつつも、しばらくは大きく悪化することなく継続しそうだ。
しかしながら、質の下がった商品が流通し、明るい将来展望を描くことができないような社会・経済状況が続く限り、若年層を中心に優秀な人材の国外流出は避けられない。こうした人材流出は、ロシア経済の今後の成長可能性を、中長期的に大きく制約する要因になるだろう。
また、たとえ戦争が終わり、西側諸国による制裁が緩和されることになっても、エネルギー資源の安定的な供給者としてのロシアに対する信頼はすでに失墜している。多くの国が、ロシアへのエネルギー依存を極力減らそうとする方向性は変わらないだろう。ロシア経済の基幹産業である石油・ガス部門の成長はもはや見込めない。
ロシアは戦争の勝ち負けにかかわらず、経済的な下り坂を進むことになりそうだ。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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