このように、地価が割安で所得が得やすい地域での地価上昇の事例は、今回の都道府県地価調査の「特徴的な地価動向が見られた各地点の状況」として、紹介されている。
このほか、隣接経済圏を勘案すると割安と考えられ、全国1位の高い地価上昇(25%の値上がり)を示した商業地の事例として、北海道北広島市のプロ野球北海道日本ハムファイターズが進めるボールパークによる開発の例、長崎新幹線開業による駅周辺整備が進んだ長崎県長崎市(+8.9%上昇)も紹介されている。
住宅需要の長期的展望
これまででは、比較的短期での個人の居住地選択を中心に地域別の地価の動向について検討をした。しかし、図1に示す通り、地域によっては依然として地価下落が続いているところも存在する。そこで、最後に長期的な不動産市場に影響を及ぼす要素として、地域的な人口変動について考える。
個々の個人がその地域に住宅を建てたいと需要しても、全体として人口の減少が進めば、マスとしての不動産需要は減少することになる。図2は先ごろ公表された2020年国勢調査の結果から、15年から20年の5年間の間の都道府県別の総世帯数の増減率と地価上昇率を示したものである。横軸が総世帯数の増減率で、縦軸が地価上昇率である。
これを見ると、世帯数の変化率が5年間で3%を下回ると、住宅地の地価が下落する割合が高まることがわかる。
将来の住宅地に対する需要を考えるために、表4では、国立社会保障人口問題研究所の『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2019年推計)にもとづいて、2020年から40年までの20年間での世帯数の減少率を求めた。表4によれば、東京都、愛知県、沖縄県の3県を除いて、今後全国すべての都道府県で世帯数が最大20%まで減少するとみ見込まれており、住宅地地価の上昇は局所的には起こり得ても、日本全体での住宅地に対する需要は減少傾向となりうることがわかる。
今回の都道府県地価調査の結果からコロナ禍からの回復により、経済活動が復帰したことで、商業地価の上昇並びに割安な住宅地への住宅需要もおき、ゆっくりと地価が下げ止まりまたは上昇している地域がみられることが分かった。しかし、地域によっては依然として地価は下落傾向にあり、今後の少子・高齢化による世帯数の減少が本格化するに従って、住宅需要の減少が起こる可能性は大いにある。
商業施設や交通インフラの建設により商業地価を上昇させれば住宅地価も上がっていくかもしれないが、今後の人口減少を考慮に入れなければ、それは過度な開発になってしまう。空き家対策・コンパクトシティによる利便性向上といった地域づくり・まちづくりの視点も入れることが必要となるといえる。