戦略的な居住地選択の指標としての地価
住宅地の価格を考える場合に、2つのことを考慮する必要がある。1つ目は、土地を資産として考える場合である。会社員の生涯での代表的な資産は、年金受給権と持ち家の額といえる。その意味では、購入する土地は将来値上がりが見込まれる場所がよいことになる。すなわち、判断の指標は将来の地価であり、将来のその地域の経済状況を表す将来の商業地を予測することも必要である。
もう1つの考慮するべき点は、住宅は現在の「居住するための役割」も果たすということになる。すなわち、地価はその地域に住んで生活する住宅サービスの価値を反映していると考えられる。
住宅を買う判断の参考として、その地域に借家やアパートのような賃貸住宅として済む場合を考えよう。消費者は家賃である不動産の価格とそこに住んで得られる、または得ている勤労収入を比較して居住地を決めるということになる。この勤労収入は、ビジネスが盛んな地域は高くなるので、「商業地の価格」がこれを表すと考えられる。
そうすると、住宅を購入する消費者は、商業地の価格と住宅地の価格を比較して、高い所得が得られそうな地域で現状割安な住宅地を購入するのが合理的な居住地選択の1つといえる。
そこで、前回の「賃金と物価「お得に暮らせる」地域はどこだ」で考えた「暮らし得指数」のような、期待される所得と住宅価格の比率で表されるような「住み得指数」(住宅版暮らし得指数)を考えてみよう。
ここでは、昨年2021年に消費者は予想を立てるとして、住み得指数 =将来の所得÷現在の地価=2022年の商業地価÷2021年時点での住宅地価を想定する。
消費者は、2021年時点で来年の経済を予測し、この地域の住宅地を需要するものとする。来年の地価に比して今の住宅地価格が小さければ、この指数は大きくなり、住宅が需要されると考えられる。ここでは、来年の地域の経済を正しく予想できる(合理的期待形成)とし、その正解値として、実際の2022年の商業地価を用いる。
表2は、この仮説に従い21年の地価調査の結果も用いて試算した都道府県別「住み得指数」である。これを見ると、政令指定都市(大都市)の存する大阪、福岡、宮城、京都、東京が上位にランクされているものの、熊本や長崎、奈良など地方も比較的高いランクに入っている。
住宅地に対する需要を表す地価上昇率
表2で試算した「住み得指数」の論理に従えば、将来の商業地に対して現在の住宅地が割安と判断されれば、住宅に対する需要が増加し、地価は値上がりすることになる。そこで、地価上昇と住み得指数の関係を見ることとしよう。
図1は、横軸に表2に挙げた住み得指数、縦軸に22年/21年の住宅地の平均地価の変化率(%)を示したものである。これを見ると、経済を表す商業地/住宅地比率が大きいほど住宅地への需要が高くなり、地価の上昇率が高いことが分かる。